届く、届かない ページ38
監督からの言葉にAは涙が溢れた。明日は決勝戦という時に過呼吸、痺れ。
重なった不運に悲しみを隠すことができない。
｢伝言はありますか？｣
Aは泣きながらもこくりと頷き、小さな声で一言伝えた。
ー決勝戦当日に戻る。
バスが出発する3分前、まだ来ないヒロトの元に監督が訪れる。
｢決勝戦…行かないのですか？｣
｢…｣
またも無言。
｢行くか行かないかは自由ですが、これだけ伝えますね。Aさんからです｣
ヒロトの呼吸が一瞬止まり、体が跳ねた。
｢“俺のせいだ、なんて言わないでね…私は決勝戦に行けなくても、キズナで繋がってる”｣
｢よく分からないですね…けれど、これがAさんの気持ちです。ヒロトくんに伝えて欲しい、と言っていました｣
ヒロトの表情は一向に変わらない。
｢では。来てくれることを信じてます｣
監督はヒロトに選択を任せ、バスに向かった。
｢Aさんなりの応援ってことでしょう。こんな時でもヒロトくんのことを考えるなんて、よっぽど大好きなんですね｣
バスから剛陣が｢監督！遅れちまうぜ！？｣と言っている声を聞きながらぽつりと誰にも届かない言葉を口にした。
病院では朝を迎えた。Aの酸素マスクは外れ、病院内では自由となった。
右足は動かしづらい程度で、すぐ治ると言われた。
時間を確認すると、決勝戦が始まる30分前。テレビをつけてイナズマジャパンを応援する。
会場には行けないため、病院で勝利を祈るしかない。
会場にはイナズマジャパンもロシア代表も到着しており、イナズマジャパンのベンチが映される。
だが、そこにヒロトの姿はない。メンバーの数人は通路の方を見ている。
『もしかして…来てない…？』
そんなはずない、と自分に言い聞かせるも、開始15分前になってもヒロトはいない。
Aは心配のあまり、ナースコールを押す。
『あ、あの…やっぱり会場に行くだけでもできませんか？』
「今日はダメですよ。退院は夜の7時頃ですから。行きたい気持ちは分かるけど、無理したらいけないの」
『そう…ですよね、すみません』
Aの不安は止まることがない。ヒロトがなぜ来ないのか。それは自分のせいなのか…と。
『お願い…』
ヒロトだけがいないイナズマジャパンを見ながら必死に願った。
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