大好きな人 ページ25
「そんなことかよ。お前はほんとバカだなあ」
笑って返すヒロトだが、Aは余計に自信をなくしてしまう。
『バカだもん…バカだから私は困ってる』
「ちげえって。今焦る必要なんてねえんだよ。AはAのペースでやってけばいいだろ。早くやるのが大事じゃねえ、覚えるのが大事なんだ」
『覚えるのが大事…？』
「早くやった所で覚えてなきゃ意味ねえ。漢字も同じだろ？一気にやったって全部は無理だ。少しずつやる方が断然覚えられるもんだぜ」
『けど…！それだと私はついていけない。ずっと置いてかれちゃう…』
「あのなぁ！
そのために俺がいる。お前が置いてかれそうになったら俺が支えてやる。置いてくなんてぜってーしねえ！」
胸を張って言うヒロトは、Aの好きなヒロトだった。
このヒロトこそが、自分にいつだって手を差し伸べてくれた存在、大好きな人。
『ありがとう…』
今にも泣きそうなAは感謝を伝えた。
「後はな、観察力が高いのは良いことだ。確かに野坂にも一星にも届かないかもしんねえ。けど、AにはAの良いところがあるし、Aにしかできないこともあるんだ」
『私…何かできてる？』
「いつもしてるだろ？
Aは無茶してでも自分の意思を通す。観察力なんて関係ねえと思うだろ？けどある」
次々とAを励ます言葉はAに強く響いていた。それは今も。
「観察力が高いからこそ、俺たちに気遣えるし、俺たちがするべきことを言ってくれる。
Aはいっつも助けてるんだよ、観察力で」
『私…できてる？私にしかできない、気遣い…』
「十分な」
漢字にすればたった二文字の“十分”。それだけでAは涙が止まらなかった。
『良かった…！私、いつも何もできてないと思ってた…みんなみたいに上手じゃないし、色々分かってない。それでも私にできることがあって…』
ヒロトは泣きじゃくるAをそっと抱き寄せた。
「頑張りすぎなんだよ、Aは。気づいてないだけでいつだって役に立ってるし必要としてる。まず俺がAを必要としてる。
Aがいてくれるだけで“何かできてる”なんだよ」
『ありがとう…ありがとうヒロト…』
しばらく泣き続けていたAに、ヒロトは泣き止ませるかのようにキスをした。
「泣きすぎなんだよ」
Aの涙は少しだけ止まったが、また泣き出すことになった。
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