Episode29 うそのあに ページ29
「そう、なら良かった」
母が笑みを溢す
視線の先は僕を捉えている
「けどな、A」
喋っていなかった父の口が開いた
父の目線の先も、僕を捉えている
僕は誰の目も見なかった。
「お前は王にはなれない」
聞こえてきた言葉は信じられないものだった
今の今まで思っていたことと正反対で
この瞬間、初めて両親を理解できなかった
兄だけは、自分とは何か明確なものが違う、
それは分かっていたはずなのに
僕だけが、違った
そう思うと、自分と両親を何かと結びつけようとしていた自分に腹が立ってきた。
.
それでも稽古は続いた
今の稽古は苦しいことだらけだ
テヒョナやソアとも久しく会えていない
こんなにも時が空くのは初めてで、また自分だけが孤立してしまうのではと恐怖心で、いっぱいだった。
稽古が終わって、自分の部屋へ戻ろうとすると
ひとつの部屋を見つけた
兄の仏壇が置かれている部屋だった
なんだかんだ言って兄とは接点がなかったし執着もしていなかったので、仏壇には手をつけていなかった。
いざ座ってまじまじと見ると、可笑しな点が多々ある。
まず、写真がない。
名前も書かれていなければ、誰の仏壇だか分からない
僕は、ここが兄の仏壇だと聞かされていたのでこの仏壇は兄のだと思っていた
もしその通りだとしても、可笑しな点がありすぎる。
ふと、周りを見渡ると小さな棚がぽつんと一人で佇んでいる
一段しかなく、棚と言っていいのか分からない
手前にひくと、分厚い書類入っていた
ペラペラと一枚いちまいまくっていると、兄の名前が記入されている束が見つかった
.
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作者名：小豆 | 作成日時：2021年4月20日 18時
