51* 贅沢なこと ページ1
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つい数秒前まで目の前に広がっていたのは綺麗な夜景だったのに、いま私の目の前にあるのはセフンの端正な顔だ。彼の目は閉じられて、まつ毛の長さがよく分かる。
あまりにも綺麗なその顔に、自分が口づけをされているという事実に気がつくのにしばらくの時間がかかった。唇が重なっていたのは、8秒間くらいだろうか。ほんの微かな水音を立ててセフンの唇が離れると、今後はおでことおでこがコツンと合わせられた。
「ごめん…A」
夜空に吸い込まれてしまいそうな小さな声でそう言ったかと思うと、セフンはゆっくり顔を離し、まっすぐ私を見つめた。するとまだ私を抱き寄せたままのセフンの腕に少しだけ力が入る。
「好きなんだ、Aのこと」
いつものフニャリとした雰囲気からは想像もつかないような真剣な目と声。
その言葉が嘘ではないことが身に染みて伝わってくる。
「セフン…」
不意打ちのキスと告白に言わなきゃいけないことが沢山あるのに、言葉は喉の奥と口の先の間を行ったり来たりして、それ以上外に出て来ない。私は動揺していた。
「返事はまだいらないよ。Aの悩み事が解決したときにでも、答えをきかせてくれればいい」
私の悩み事が解決したとき？それはあの花火の日の彼の顔を思い出したらってこと？
そんなの、いつになるかわからない。
「…ひょっとしたら、一生解決しないかもしれないのに？」
「Aが思ってるよりも、きっと早く解決するよ。僕にはそれが分かる」
ゆっくりと体が離されると、冬の匂いを僅かに含んだ夜風が私とセフンの髪を静かに揺らす。
セフンはどこか切なそうな表情をしている。昔私が日本に帰ることが決まったことを伝えた時も、確か彼は同じ表情をしていた。
「ただ、覚えておいて。僕の言葉が本気だってことは」
「覚えておくよ、忘れない」
「もし、どうしても解決しなかったら、僕も手伝うから」
どうしてそんなに優しいの。セフンは昔から、とても優しい。
そんな人から想われているのは、なんて贅沢なことなんだろう。
「…ありがとうね、セフン」
そう言うと、セフンはいつも通りの笑顔を見せた。
「僕は君からそう言われるのも、昔からたまらなく好きだよ」
セフンはそう言うと、その大きな手のひらを私の頭の上にポンと乗せた。
「気長に返事待ってるね、A」
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作者名：豆乳 | 作成日時：2018年12月30日 18時
