白丁花の花束を君へ(後)

僕らの未来は ページ38

特別な食材が入っていたりとか、こだわりの作り方だとか、そういうんじゃない至って普通のオムライス。
むしろ、少し冷めているし、形だって…。
だけど、Aの手作りって初めてだし、何より、彼女が俺を想って作ってくれたその時間からもう愛おしい。
だから、最高に"美味しい"と感じるんだ。



最後の一口を大きく口に運ぶと、味わうように咀嚼して飲み込んだ。

「ごちそうさまでした」
「おそまつさまでした」

綺麗に平らげた皿を見て、Aが嬉しそうな表情を浮かべた。
そのまま、視線を上げずに、彼女は口を開く。
囁くような小さな声で、わりと大事な話するね、と。

「ずっと、言うタイミングを探してたんだけど…私ね、やりたいことが見つかったの」

俺たちは、ずっと進路の話をしてこなかった。
もちろん、中央大の推薦を受けることを決めたことは伝えてあったけど、Aの進路を聞くことはなくて。
話す機会が極端に減ったこともあるけど、Aの進む道がどんなものであれ、この気持ちは変わらないって自信があるから口出ししないと心に決めていた。
俺と一緒に東京の大学へ来て、と何度も言葉に出そうとして、無理矢理飲み込んで。

「管理栄養士になりたくて、東京の女子短大を受けることにしたんだ」
「…東京？」
「うん。受かればね。祐希くんはこれからもっとバレーに夢中になる。きっと、すごい選手になっていく」
「…それでも、俺の側にいてくれるってこと？」
「もちろん。管理栄養士になって日本代表になった祐希くんの食事メニューを作るのが私の夢だから」
「絶対叶うよ、その夢。毎日飽きるほど作ってもらう日が来るから、覚悟してて」

またプロポーズもどきだ、と言ってから、ふと真剣な表情で、大好きだよ、祐希くん、なんて呟くから、思わずその頰を指先で撫でて、くすぐったそうに口角を上げた唇をぺろりと舐めた。
１度舐めたらもっと欲しくて、食いつくように唇を奪う。
ちょ、や、待って、と抵抗する手も、こんな力じゃ可愛いもんで、簡単に腕の中に抱き込んだ。

「…A、好きだよ、大好き」


腰を引き寄せ髪を撫でて、唇の隙間から割り入った口内で舌を絡める。
キスとキスの合間、ふは、と吐き出す呼吸も欲しくて、それさえ奪うようにもっともっと唇を重ねて。


びくりと震えたAの足がテーブルに当たって、空の食器がガチャンと音を立て、ふっと離れた唇。

甘くなりすぎた空気を変えるように、片付けなきゃ、と彼女が俺の腕から逃げた。

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