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悲しみに夜明けを ページ29

柔らかいベッドにトンと押し倒すと、Aの髪がシーツの上に広がる。
香りを確かめるように首筋に鼻先を寄せると、びくり、と彼女が身体を強張らせた。
微かに触れる俺の鼻先がくすぐったいのか、Aが、ん、と呼吸とも声ともつかない甘い吐息をはいた。
また目を合わせて、もう1度、キス…

バタン!

「祐希ー!ミーティングするって…うわっ!」

突然現れたイケメンリベロのせいで、口から心臓が出るほど驚いた。
それは俺もAも、期せずしてこの瞬間を目撃してしまったあいつも同じで。
3人とも声にならない声を上げて、あいつは、とにかく、伝えたから!と逃げるように部屋を出て行った。
耳まで真っ赤にしたAは膝に顔を埋めるように体育座りをして、その横に、ゴロンと力なく寝転んだ。

「…ド○○キして、死んじゃうかと思った」
「俺も…」

未だ収まりきらない鼓動が胸を揺らす。
彼女も同じ気持ちでいてくれてるってことが嬉しくて、寝転んだまま、華奢な指に自分の指を絡ませた。
ミーティング、行かなきゃでしょ、と言ったAに、もうちょっとだけ、と呟いて、少し身を起こして頰にキスをした。

「い、石川く…」
「祐希。祐希だよ、俺の名前」
「知って、るよ」
「呼んでよ、ちゃんと」

自分で自分の名前を呼べってのもなんだか恥ずかしい。
でも、それよりも、早くAの声で紡がれる俺の名を聞きたくて。

「…祐希、くん」

やっぱり。
その音は悶えるほどに愛おしい音色で響いた。
自分の名前がすごく特別なものに思えて、堪らず彼女を抱き寄せた。
伝えたい言葉はいくつもあるけど、全然まとまらなくて、結局ありきたりな言葉をAを抱きしめながら呟く。

「…明日、勝つから。安心して見てて」
「ん、わかった」

名残惜しくも身体を離して、下まで送るよ、と手を取った。
行為は未遂に終わったのに、いや、未遂だったからそこなのか、恥ずかしさから彼女の顔をちらりとも見えずに見送った。
だけど、また明日、そう言ったAの声は、ここに来た時よりもずっと明るく柔らかく聞こえた。
不安を取り除けたって、思ってもいいよね。




次の日、頭の中に残っていた煩悩は試合開始の笛とともにすっかり消えた。
不安にさせて、泣かせるなんてもう懲り懲りだから。
だけど、試合終了の笛と同時に歓喜の輪に包まれながら探したのはやっぱりあの子の笑顔で。
結局、俺はバレーも彼女もどうしようなく好きなんだ、と思い知る。

だけどまたすぐに夜が来るの→←心臓が壊れる



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ユイ(プロフ) - 初めまして、読んでいくうちに続きが読みたくなりました。新しいHPを教えてください。 (10月19日 21時) (レス) id: 30678c49ef (このIDを非表示/違反報告)
Yuri(プロフ) - はじめまして。以前から読ませてもらって、また最初から読み直しました。新しいホームページは消してしまったのでしょうか?? (2018年6月30日 20時) (レス) id: 258a85c425 (このIDを非表示/違反報告)
まる(プロフ) - 初めてコメントします。この作品ずっと読んでます。宜しければ新しいHPを教えてください( ; ; ) (2017年6月20日 9時) (レス) id: 43856cab70 (このIDを非表示/違反報告)
yukim8216(プロフ) - こんにちは。新しいHP教えて頂けますでしょうか?『ナノ』でそこからトップページからログインしてからどうすれば見れるのか分からなくて。前はそのHPで見てのてすが。ごんなさい、教えて頂けますでしょうか (2017年5月6日 7時) (レス) id: 343ef2b4f0 (このIDを非表示/違反報告)
RON(プロフ) - nattuさん» ありがとうございます。新しいHPで加筆修正したお話をアップしています。ぜひお越しください^_^ (2017年3月10日 14時) (レス) id: bdef7d3ec7 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:RON | 作成日時:2016年7月27日 22時

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