心臓が壊れる ページ28
ふと、あの日を思い出す。
マサさんの動画を見てボロボロと泣き出した私を図書室へ連れ出してくれた日を。
あの日と変わらない石川くんの腕の温もりは、最初からこうなる運命だったんだよ、と言っているようで。
「落ち着いた?」
「ん、だいぶ…ありがとう」
彼の腕の中でくぐもった声で答えた。
確かに泣き止んだけど、ぐちゃぐちゃの顔が恥ずかしい。
「ね、Aさん、顔上げてよ」
「無理…」
「なんで?」
「顔、ぐちゃぐちゃだし」
「いいよ、別に」
「良くないよ」
「いいよ、顔見たい。……顔上げてよ…A」
不意に名前で呼ばれて、え?と思わず顔を上げると、顔を真っ赤にした石川くんと目が合った。
だって、柳田さんは名前で呼んでたじゃん、と大きな手で口元を隠すように言って。
「…やっと、顔上げてくれた」
「あんまり、見ないで」
「やだ」
いたずらっぽく笑う石川くんが、私の頰を長い指ですうっと撫でる。
そして、急に真面目な表情に変わった彼にどくん、と胸が鳴った。
「約束する。国体も春高も、もう1セットも負けない。日本で1番になる。その瞬間に連れて行くよ」
「…うん」
「その先だってずっと側にいて、俺の姿を見ててほしい。それだけでいいんだよ。……A、が、笑っててくれるなら、それだけで」
特別な事なんてしなくていんだよ、とふわりと表情を崩して笑うから、引っ込んでいた涙がまたポロリ。
その涙を石川くんが指で拭って、顎まで滑らせた親指が少しだけ顔を上に上げるようにくいっと動いた。
いしかわくん?と言った唇に、彼の柔らかい唇が重なった。
触れただけのそれはすぐに離れて、一瞬、至近距離で目が合って、また重なって。
壊れる。
心臓が壊れるくらい、ドクン!と跳ねた。
呼吸も辛いほどに胸が締め付けられる。
もう一度離れたら、今度はぎゅうっと強く抱き寄せられた。
「…苦し」
「あ、ごめ、つい…」
緩められた腕の中から見上げた石川くんは真っ赤で、そっと耳を寄せた胸は早鐘のように鼓動を刻んでいて、ああ、彼も同じくらいド○○キしてくれているんだ、と感じた。
A、A、と耳元で名前を呼ばれて、くすぐったさにゾクリとした私を、石川くんがそっとベッドに倒して。
甘く絡められた両手はシーツに縫い付けられて、宿舎の少し古びた天井と石川くんしか見えなった。
こんな表情、知らない。
ふにゃりと笑う顔とも、試合で見せる真剣な表情とも違う。
男の人なんだ、と強く意識した。
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ユイ(プロフ) - 初めまして、読んでいくうちに続きが読みたくなりました。新しいHPを教えてください。 (10月19日 21時) (レス) id: 30678c49ef (このIDを非表示/違反報告)
Yuri(プロフ) - はじめまして。以前から読ませてもらって、また最初から読み直しました。新しいホームページは消してしまったのでしょうか?? (2018年6月30日 20時) (レス) id: 258a85c425 (このIDを非表示/違反報告)
まる(プロフ) - 初めてコメントします。この作品ずっと読んでます。宜しければ新しいHPを教えてください( ; ; ) (2017年6月20日 9時) (レス) id: 43856cab70 (このIDを非表示/違反報告)
yukim8216(プロフ) - こんにちは。新しいHP教えて頂けますでしょうか?『ナノ』でそこからトップページからログインしてからどうすれば見れるのか分からなくて。前はそのHPで見てのてすが。ごんなさい、教えて頂けますでしょうか (2017年5月6日 7時) (レス) id: 343ef2b4f0 (このIDを非表示/違反報告)
RON(プロフ) - nattuさん» ありがとうございます。新しいHPで加筆修正したお話をアップしています。ぜひお越しください^_^ (2017年3月10日 14時) (レス) id: bdef7d3ec7 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:RON | 作成日時:2016年7月27日 22時