エース ページ24
「浮かれてんね、祐希」
「今日、Aが観に来るんだって」
「ああ、それで…」
鼻歌まじりにアップをする祐希を横目に、ボールの感触を確かめるようにふわりと真上に上げた。
Aの姿をギャラリーに見つけて、へらへらと笑いながら手を振る祐希を小突いて、スパイク練習を促した。
ひとりひとりの調子を伺うようにトスを上げる。
こいつにはもっと早く。
こっちは高く。
今日の状態に合わせて。
だけど一通り打たせて、ふと気付く。
なんだか調子が良くない、かも?
ひとり、ふたり、調子が悪い時なんて多々あるし、そんな時はいくらでも調整して勝ってきた。
でも、こんなにみんながみんなしっくり来ない時なんて今まであったかな…。
そんな思いは俺だけでなく、スパイク練習のボールを受けていたリベロも同じように感じているらしく、すっきりしない表情で互いに目を合わせた。
さて、頼りのキャプテンはどうかな?
…あ、だめだ。
あれ、すげえ浮かれてる。
昔から見てきたから、祐希のことならすぐにわかる。
モチベーションが高い分、きっと試合が始まるまで自分の不調には気付かないな、あれは。
不穏なものを抱えながら、試合開始の笛を聞いた。
やっぱり、というべきか。
うまくハマらない感覚を持ったまま、1セット目を福岡選抜に取られた。
さすが、強豪東福岡。
俺たちの綻びを見逃さない。
続く2セット目も連取され、後がなくなった3セット目。
負ける、なんて思いたくもない。
高校最強と言われるに相応しいメンバーだって、いつもパスを受けたりトスを上げるたびに思うんだ。
だから、負けるわけにはいかない。
そう思えば思うほど、みんなの肩に余計な力が入っていくように感じた。
「ごめん!」
「祐希?どうした?」
「ちょっと気合い入れ直す。ここから俺にボール集めて。全部決めるから」
優秀な、例えば全日本に選ばれるようなセッターならどうするんだろう。
俺の答えは、いや、みんなの答えはたったひとつ。
もちろんYESだった。
祐希がいたから勝ってきたわけじゃない。
でも、昔から、いや、特に最近の祐希は、どんな時でもきっとなんとかしてくれる、と思わせるような選手になっていた。
「祐希…」
「さあ、勝つぞ」
コート内の空気が変わる。
相手の鋭いサーブをリベロが驚くほど柔らかに俺の手元にパスをした。
祐希がトスを呼んでいる。
強い光に引き寄せられるように、祐希の好きなトスを上げた。
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ユイ(プロフ) - 初めまして、読んでいくうちに続きが読みたくなりました。新しいHPを教えてください。 (10月19日 21時) (レス) id: 30678c49ef (このIDを非表示/違反報告)
Yuri(プロフ) - はじめまして。以前から読ませてもらって、また最初から読み直しました。新しいホームページは消してしまったのでしょうか?? (2018年6月30日 20時) (レス) id: 258a85c425 (このIDを非表示/違反報告)
まる(プロフ) - 初めてコメントします。この作品ずっと読んでます。宜しければ新しいHPを教えてください( ; ; ) (2017年6月20日 9時) (レス) id: 43856cab70 (このIDを非表示/違反報告)
yukim8216(プロフ) - こんにちは。新しいHP教えて頂けますでしょうか?『ナノ』でそこからトップページからログインしてからどうすれば見れるのか分からなくて。前はそのHPで見てのてすが。ごんなさい、教えて頂けますでしょうか (2017年5月6日 7時) (レス) id: 343ef2b4f0 (このIDを非表示/違反報告)
RON(プロフ) - nattuさん» ありがとうございます。新しいHPで加筆修正したお話をアップしています。ぜひお越しください^_^ (2017年3月10日 14時) (レス) id: bdef7d3ec7 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:RON | 作成日時:2016年7月27日 22時