唇に触れる一瞬前 ページ22
「付き合うって、何すればいいんだっけ?何してもいいんだっけ?」
「祐希、落ち着いて」
落ち着いて、なんて無理。
ここ何日か、浮ついたままの心がふわふわして。
晴れて彼女となったAさんとの距離感も未だわからないまま。
「別に初めての彼女って訳じゃないんだから、今までと同じでいいんじゃない?」
「無理だよ、全然違う。"今まで"なんて比較にならないくらい、Aさんは特別」
そんな事を部室で話していると、惚気んな、バーカ、と副部長に部日誌で叩かれた。
もうすぐ国体だろ?と言われれば、ピリリと心が引き締まる。
彼女のことはもちろん好きだけど、バレーボールももちろん大切で。
どちらが上とかそういうものじゃなくて、心の中の全く別の場所にあって、カチリとスイッチが切り替わる。
だけど、Aさんが応援してくれる、と思うだけでもともと高い水準にあるモチベーションはもっと上がるし、身体も軽く跳ねるように動く。
あの子ひとりで簡単にブーストがかかるんだから、なんて単純な男なんだろう。
鼻歌交じりに上げたボールは最高のトスになって、流れるように動いた身体が羽が生えたみたいに浮いた。
弧を描く腕でボールを叩けば、ネットの向こうコートの隅に鋭く刺さる。
ナイスサーブ。
「調子いいね」
チームメイトの声に、もちろん、と答えた。
部活終わり、暗くなった玄関にひとつの影。
すらりと高い背の傍に一本の杖。
「Aさん!?どうしたの?」
「あ、ちょっと委員会で遅くなって、それで…」
食い気味に、送る!と宣言して慌てて靴を履き替えた。
じゃあね、バイバイ、とまだ皆で集まって喋っているチームメイト達に手を振って。
特に寮生のふたりには、くれぐれもごゆっくり、と伝えて。
寮までの短い道を並んで歩く、足音ふたつと杖の音ひとつ。
聞き慣れたリズム。
「めずらしいね、委員会で遅くなるなんて」
「ん、あの、本当は…少し遅くなっただけで…あとは、その、石川くんを待ってました」
一緒に帰りたいなって思って、と俯くものだから、愛おしいと思う気持ちが溢れてきて。
「Aさん、照れてる?」
「…照れてない」
じゃあ、顔見せて、とからかうように横から顔を覗き込んだ。
恥ずかしそうに唇を尖らせる姿に、やっぱり照れてる、と笑うと伏せていた瞳がちらりと上目に俺を見つめた。
ほんの一瞬。
だけど、ハッとするほど綺麗で。
触れたくて、その肌に唇に。
ひっそりとした帰り道、湧き上がる思い。
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ユイ(プロフ) - 初めまして、読んでいくうちに続きが読みたくなりました。新しいHPを教えてください。 (10月19日 21時) (レス) id: 30678c49ef (このIDを非表示/違反報告)
Yuri(プロフ) - はじめまして。以前から読ませてもらって、また最初から読み直しました。新しいホームページは消してしまったのでしょうか?? (2018年6月30日 20時) (レス) id: 258a85c425 (このIDを非表示/違反報告)
まる(プロフ) - 初めてコメントします。この作品ずっと読んでます。宜しければ新しいHPを教えてください( ; ; ) (2017年6月20日 9時) (レス) id: 43856cab70 (このIDを非表示/違反報告)
yukim8216(プロフ) - こんにちは。新しいHP教えて頂けますでしょうか?『ナノ』でそこからトップページからログインしてからどうすれば見れるのか分からなくて。前はそのHPで見てのてすが。ごんなさい、教えて頂けますでしょうか (2017年5月6日 7時) (レス) id: 343ef2b4f0 (このIDを非表示/違反報告)
RON(プロフ) - nattuさん» ありがとうございます。新しいHPで加筆修正したお話をアップしています。ぜひお越しください^_^ (2017年3月10日 14時) (レス) id: bdef7d3ec7 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:RON | 作成日時:2016年7月27日 22時