僕らのスピードで ページ3
ひらひらと落ちる花びらを1枚手のひらに乗せて、ふと思い出す。
葉桜に変わりつつある桜。
この桜が咲き始めた頃、Aさんは自分の怪我に対してどこか頑なだったな。
桜並木の桜は満開なのに、彼女はどこか切ない顔で。
俺は俺で桜なんかに見向きもしなくて、彼女の手助けをすることばかりに夢中だった、そんな春休み開けすぐの頃。
「Aさん、荷物持つよ」
「いいの、大丈夫」
「持ちづらいでしょ?俺持つって」
「自分のくらい自分で持てるよ」
少し頰を膨らませた彼女はすごく可愛いと思うけど、なんで怒らせたのかわからなくて。
そんなやり取りが数日続いたある日、彼女がポツリと呟いた。
「私、ひとりじゃ何にもできない人みたい」
そんな気持ちにさせていたなんて。
足を怪我していたって変わらずにAさんが好きだったのに、知らず知らずのうちに彼女を"何もできない"と決めつけていたのかもしれない。
「ごめん、変なこと言ったね」
そう取り繕うように笑う彼女の杖を持つ冷たい指先に少し熱い自分の指を重ねた。
「俺の方が、ごめん」
「もういいって。行こう」
良くないって、と言って杖を動かそうとした手を簡単に押さえ付けた。
「良くないよ。ちゃんと知りたい。Aさんがどうしてほしいのか、何をしてほしくないのか、全部知りたい」
だって思い付かないもん。
器用じゃないし、察せるほど鋭くないし、程よくなんて全然できない。
本当なら、杖なんて捨てていつも抱き上げて何処へでも連れて行きたいくらいだ。
あの日の柳田さんみたいに、カッコよく君を守れたらどれだけ良いか。
だけどやっぱり俺は俺でしかなくて。
「だから、少しずつでもいいから教えてよ、Aさんの気持ちを、さ」
「…自分でできることは、自分でしたい」
「うん、わかった。でも、俺が大変そうだって思ったら勝手に手伝っちゃうから、嫌なら言って」
「うん」
「あと、困ったらすぐに頼って。誰より先に俺を思い出して」
消え入りそうな声で、うん、わかった、と言ったあの時のAさんの耳が赤くて可愛くて。
いや、たぶん俺も赤かったんだけど。
そんなことを思い出していると、もうお馴染みになったAさんの足音が、桜散る並木道にコツンコツン。
俺の姿を見つけると、示し合わせたようにバレー部の寮生ふたりが、先に行くわ、と早足で。
「おはよう」
「おはよう、石川くん」
ここから学校まであと少し。
短いけど、君を独り占めできる特別な距離だ。
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ユイ(プロフ) - 初めまして、読んでいくうちに続きが読みたくなりました。新しいHPを教えてください。 (10月19日 21時) (レス) id: 30678c49ef (このIDを非表示/違反報告)
Yuri(プロフ) - はじめまして。以前から読ませてもらって、また最初から読み直しました。新しいホームページは消してしまったのでしょうか?? (2018年6月30日 20時) (レス) id: 258a85c425 (このIDを非表示/違反報告)
まる(プロフ) - 初めてコメントします。この作品ずっと読んでます。宜しければ新しいHPを教えてください( ; ; ) (2017年6月20日 9時) (レス) id: 43856cab70 (このIDを非表示/違反報告)
yukim8216(プロフ) - こんにちは。新しいHP教えて頂けますでしょうか?『ナノ』でそこからトップページからログインしてからどうすれば見れるのか分からなくて。前はそのHPで見てのてすが。ごんなさい、教えて頂けますでしょうか (2017年5月6日 7時) (レス) id: 343ef2b4f0 (このIDを非表示/違反報告)
RON(プロフ) - nattuさん» ありがとうございます。新しいHPで加筆修正したお話をアップしています。ぜひお越しください^_^ (2017年3月10日 14時) (レス) id: bdef7d3ec7 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:RON | 作成日時:2016年7月27日 22時