【d!】春雷の喝采を【演劇部企画前編】 (ページ27)

今日:3 hit、昨日:0 hit、合計:8,948 hit

△ ページ27

「……そ、う、ですか」

じっと目を見つめて言い放った私を、咲き始めた桜の花みたいに、ぽぽぽっ、と頬を染めながら見る、先輩。
恥ずかしそうに顔をそっぽ向けて、綺麗な手で口を覆い隠した。
エーミール先輩は、こう言った恋愛事には疎いのだろう。今までの脚本も見せてもらったことがあるけど、どちらかと言うと恋愛模様ではなく殺伐とした友情物語だったり、サスペンスだったり、そういったものが多かった。

「中々、その……ストレートに来ますね」
「ええ。回り道は逆に伝わりづらいと思いまして。……先輩には、その方が伝わるでしょう？」
「いやあの……はぁー、そうですけどね……？」
「とにかく、私はエーミール先輩が書いた脚本じゃないと演じたくないです」
「……ほんと、気持ちのいいくらい真っ直ぐですね」

ふ、と微笑むエーミール先輩。
それが目を奪われるほど綺麗で、なんだか私まで恥ずかしくなってしまう。
エーミール先輩も、一年の時に一度舞台に立ったことがあるけど、ガチガチに緊張してしまっていたらしい。これくらいナチュラルに演じれれば、きっと名役者になってただろうに。

「先輩たちは来年で、最後じゃないですか。……一年の私が出しゃばるのもいけないとは思いますけど、でも」
「ええ。……でも私は、自分の思うような脚本を書けるようになるまでは、脚本は書きません」

そう、断言するエーミール先輩。
染まっていた頬の桜に空の茜が強く混じる。黄昏にも似た色。
まだ、まだ先なのかなぁ。私がこの高校生活で貴方の世界の一人になることは叶わないのかなぁ。

いつになったらあなたの舞台で踊れるのか。
それを私はいつまでも夢見ている。

そんな、秋の話。