梅結び (ページ3)

今日:5 hit、昨日:4 hit、合計:3,502 hit

＊ページ3

和に背中を押されて病院を出た。
向かう先は翔ちゃんの住むマンション。

翔ちゃんのことは大好きだけど、この街は嫌い。デッカいビルが怪獣みたいに生えまくってて、空が見えなくて嫌になる。
その中でも一際高いマンションの、一番上に翔ちゃんは住んでいる。
高いところが好きなんだねと言ったら、翔ちゃんは困ったように首を振っていた。彼は高所恐怖症だった。
初めて家に言った時、そのワケを問うたことがある。

「高いの嫌いなくせに、よく住んでるよね」
「本当は一階に住みたいんだよ。」
「そうなの？なんで一番上にしちゃったの？」
「父が決めたんだ。」
「ひでーな。ちゃんと言ったの、嫌って。」
「どうだろう、言わなかったかもな、」

自分のことなのに、他人事みたいに話す翔ちゃんはちょっと変だ。いっつも完璧な彼だけど、家族のことを話す時だけは何かぎこちない。

そんなことを思い出しながら、ピンポンとチャイムを鳴らした。翔くんが玄関から顔を覗かせる。

「いらっしゃい。」

いつもと同じように、優しく明るく、翔くんが言ってくれた。

「ごめん、この間は。」
「俺も、ごめん。」
「和に、謝れって、言われて。もちろん、それだけじゃ無いけど。」
「わかってる。」

なんか、泣きそう。
涙が出る前に急いで言葉を発散する。

「元気そうだった。体調もいいって。ご飯も食べれたってさ、笑ってた…」
「…そう。」
「デコピンされた。痛かったよ。アイツ、力強いのな。」
「智くん。」
「なに。」
「俺じゃダメかな。」

言葉の意味がわからなくて翔ちゃんの顔を見た。
形の良い二重の瞳が、ジっと俺を見つめていた。

「どういう、こと？」
「和の代わりになんてなれないけど、
俺…、いや、ごめん。
何言ってんだろ。
忘れて。」
「あぁ、うん。」

その後、ポツポツ話をして、
俺はすぐに翔ちゃんの家を出た。
そのまますぐ、和のもとに急いだ。

仲直りしたよ、って言いたくて。
本当のところ仲直りできたのかも分からなかったけど、小さい理由をつけて和に会いたかった。