梅結び (ページ2)

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「おじさん、翔ちゃんと喧嘩したって？」

しゃりり、
和の形のよい歯が林檎を噛んだ。
しゃりしゃりと咀嚼する合間に、和が呆れたように言う。

「ん」

ばれてる。
俺は恥ずかしさを誤魔化すために、手元のスケッチブックに集中しているフリをした。

「仲直りしなよ」
「ん」
「ん、じゃなくてさ。」
「ん」
「アンタと根気よく付き合ってくれんの、翔ちゃんくらいなんだからさー。」
「わかってる。」
「本当小学生じゃないんだから、はなしきけや。スケッチブック没収ね。」

スケッチブックが奪い取られた。
和は興味なさげに数枚捲ると、ベッドの上に放り投げた。
拍子に点滴のチューブがゆらゆらと揺れる。

「辛気臭いかお、」

和は、辛気臭い顔が何よりも嫌いらしい。
俺がそういう類の顔をしてると、すかさずデコピンをかましてくる。和は細っこい腕をしてる割に、なぜかデコピンがすげえ上手くて、これまた絶妙に痛いのだ。

「翔ちゃんに何言われたの。
アンタが怒るなんて、相当のことでしょ。」

痛いところをつかれて黙りこくる。
俺の悪い癖。
考えすぎたり言い訳しようとすると、言葉が出てこなくなる。
そういう時、代わりに喋ってくれるのは、いつも翔ちゃんと和だった。

和が病気してからは、翔ちゃんが助けてくれることが多かった。ありがとうって言ったら、和にも頼まれてるからねって教えてくれた。

「さとし」

和が、俺の名前を呼ぶときは、
ちょっと嫌だ。

その優しい声に、心を丸められそうになるから。

「なにがあったの」

「何でもないよ。明日には仲直りしてる。」

「もう良い大人なんだから、意地はんのやめなさいよ。」

和がスケッチブックと鉛筆をもって、サラサラと筆を動かした。

「がんばれ」

と小さく描かれてた。
あと変な生き物も。