【獄都事変】雨と花と【木舌】

。27 ページ29

｢罪を償った後、私はどうなるんでしょうか｣






ふと言葉にした疑問




本当に、ふと思いついただけである。









｢よほど重い罪を背負った者でなければ亡者は皆、輪廻の輪に戻されます｣





｢輪廻の輪？｣





｢そうです。輪廻の輪にいる限り、
死と再生を繰り返す...つまり生まれ変わり続けるんです。｣





｢なるほど。生まれ変わったら、この記憶も失われてしまうんですか...？｣






｢そう、ですね...そういうことになります｣








｢...さみしいですね｣







もれてしまった本音

慌ててなんとか取り繕おうと言葉を探すが見つからない


すると、木舌さんは大丈夫ですよと微笑んだ







｢その点、獄卒のおれは死ぬということがまず無いのでその輪廻の輪には干渉できません。


つまり

おれがAさんとの記憶を失うことはない｣





胸の奥をぎゅっと押しつぶされたようなさみしさが私を襲う







｢さみしくないんですか？｣







｢...さみしくない、と言えば嘘になります。


でも、

おれがAさんを覚えている限り、あなたはどこにも行ったりしない

Aさんは
ずっとおれの中で生き続けます｣





だから、大丈夫


そう言って木舌さんは優しく微笑んだ







｢....私、木舌さんのこと、忘れたくないです｣







ぼそっと零れた弱音を木舌さんは聞き逃さなかったらしい



隣でため息が聞こえた


呆れられてしまったのだろうか






と思った次の瞬間には

私は木舌さんの腕の中にいた






｢あんまり可愛いこと、言わないでください

こんなに離したくないって思わせておいて、
Aさんはおれのことどうしたいんですか！｣




口調は少し困ったように言っているのに
嬉しそうにしか聞こえない木舌さんの声







少し離れて顔を見る


困ったように笑う木舌さん







｢このまま獄都にも連れて行かずに、あなたをどこかへ連れ去ってしまえたらどんなにいいか...｣








その言葉の裏に隠されたあまりにも残酷な悲しさに、なんと言っていいのかわからなくなる




木舌さんの大きな背中に腕を回し、抱きしめ返した









これが最後でもかまわない


少しでも、少しでも長く



この幸せな時間が続きますように









雨は、いつの間にか止んでいた。

。28→←。26

→ 目次へ｜作品を作る｜感想を書く
他の作品を探す