遭遇 ページ38
「…あ、そうだ。A、ついでって言ったら悪いけど、トマトとトリ肉を買ってきてくれない?今日丁度特売なんだ。…あ、あとニンジンも。」
『え、ニンジンはいらないんじゃ――』
「いや、いる。」
私の言葉を遮るように千さんは頷く。
「買ってきて?」と優しくお願いされたら、兄ちゃんじゃないけど断れるはずがない。
しぶしぶながらも了承し、靴を履いているときに『そういえば、』と思い出した。
『今日って兄ちゃん、バイト早く上がるんだっけ?』
「うん、夕ご飯には間に合うようにするって。……そろそろ帰ってくるんじゃない?」
壁にかかってる時計を見て千さんは嬉しそうに微笑む。
…なるほど、だからお肉か。
普段は高いからあんまり買わないもんね。
それに千さんがお肉食べれないから、兄ちゃんと買い物に行っても野菜しか買わない。
「この値段でカゴ一杯にモヤシ買えるっ!!」
って言ってモヤシしか買わなかったことあったもん。
…さすがに千さんに怒られてたけど。
その時は家の食糧がモヤシしかなくなったから完全主食モヤシだったな〜。
モヤシご飯、モヤシのスープ、モヤシサラダ、モヤシ炒め……。
…もうモヤシがゲシュタルト崩壊するよ。
…よし、お肉オマケしてもらえないか頑張ってみよう!
お肉大好きな兄ちゃんだからきっとすごく喜ぶ。
牛肉じゃなくてお財布に優しい特売のトリ肉だけど。
しばらく3人で一緒に夕ご飯を食べれてないから、千さんも余程嬉しいのだろう。
先程までの作曲に苦戦して眉間に皺が寄っていた姿とは打って変わって、今は鼻歌混じりに野菜を切っている。
本当に兄ちゃんのこと大好きなんだな〜。
気付かれないように小さく笑ってからドアノブに手をかける。
『じゃあ時間が合いそうだったら帰りに兄ちゃんのバイト先寄ってみるね。』
「うん、分かった。気を付けてね。遅くならないようにね。」
『行ってきます!』と言って玄関を開けると丁度夕日が一番綺麗な時で、眩しくて思わず目を細める。
トマトとトリ肉…。
なんだろう。トマト煮込みかな?
お肉が食べれない千さんが兄ちゃんと私のために作ってくれる料理。
千さんが作ってくれる料理は全部好き。
ニンジンとか、魚とか、ちょっと苦手なものもあるけど。
同じ食材でも料理によって食感も味も違ってくることを知った。
味覚の弱い私のためになるべくいろんなものを食べさせてくれる。
食事は毎日の楽しみの一つになっている。
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欅夏希 - とっても面白いです!感情の変化や状況などが分かりやすく、読みやすいなぁと個人的には思っています!お話を作るのは簡単ではないかもしれませんが、続きを読めるのを楽しみに待たせて頂きます。無理なさらず、頑張って下さい。 (2020年3月27日 22時) (レス) id: 94cd216a66 (このIDを非表示/違反報告)
柚木夏紗 - 面白いっ!!!!更新待ってます!!! (2020年3月18日 7時) (レス) id: 73f9f96d98 (このIDを非表示/違反報告)
聖(プロフ) - はじめまして いつも更新を楽しみにしています。 これからも頑張ってください^_^ (2020年3月14日 12時) (レス) id: d507af1541 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:テル | 作成日時:2020年3月3日 13時