千さんの元・相方さん ページ19
その言葉にそのまま頷こうとした自分がいた。
…作ってみたい。
浮かんだ音を形にして思うがままに歌ってみたい。
だけど、素直に『はい』は言えない。
千さんにも兄ちゃんにも自分たちの生活に加えて私がいる分の負担をかけている。
兄ちゃんは空いた時間はずっとバイトをしている。
この間なんか、泥だらけになった千さんが両手いっぱいにタンポポやらヨモギやらの野草を抱えて帰ってきた。
本人は嬉しそうだったけど、兄ちゃんが少しだけ悲しそうな顔をしたのを見てしまった。
千さんに泥なんかつけてほしくないし、兄ちゃんに悲しい顔なんてさせたくない。
今私が自分のやりたいように動いてしまうと、きっと二人にもっと大きな迷惑がかかる。
二人の心配事も増えてしまう。
だから今はダメだと思った。
二人の生活が安定してから自分の好きなことにチャレンジしてみようと決めていた。
もし、このまま苦しい暮らしが続くなら何か私が役に立てるような仕事をしよう。
その時のために知識を頭に入れておくことは必要だった。
『…今は大丈夫。それより、仕事はもういいんですか?まだ夕方ですよ?』
「"もう"夕方、じゃないのか?…あぁ、今日はあとは書類をまとめるだけだ。百たちももうすぐ事務所に戻ってくるはずだよ。」
そう言いつつも岡崎社長は仕事をしようとせず、またテーブルの上に積み重なった本を手に取ってパラパラとめくっている。
…話したいのかな?
パタンと本を読み終わって気付く。
【…あ、全部読み終わっちゃった。】
それを分かっていたように社長は「何か飲むか?」と聞いてくるので、チラッと時計を見てから頷く。
時刻はまだ午後5時過ぎ。
Re:valeの仕事が終わるまでまだ1時間はあるだろう。
部屋に備え付けてある小さい冷蔵庫からオレンジジュース(私が事務所に来始めてから社長室に常備されるようになった。)を取り出してコップに入れる社長にふと、ずっと頭の中にあったことを聞いてみたくなった。
『…岡崎社長は、千さんの前の相方さんのこと、知ってますか?』
「ん?ああ、知っているよ。会ったことは無いけどね。」
コップを受け取って一口飲む。
少し酸味があるオレンジの味。
この味は覚えた。いつも100%のオレンジジュースしか社長は出さないし。
自分はコーヒーを入れると一口飲んでからテーブルの上に置く。
「気になるのか?」
千さんの前の相方さん。
前のRe:vale。
そのことは少しだけ千さんから聞いた。
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欅夏希 - とっても面白いです!感情の変化や状況などが分かりやすく、読みやすいなぁと個人的には思っています!お話を作るのは簡単ではないかもしれませんが、続きを読めるのを楽しみに待たせて頂きます。無理なさらず、頑張って下さい。 (2020年3月27日 22時) (レス) id: 94cd216a66 (このIDを非表示/違反報告)
柚木夏紗 - 面白いっ!!!!更新待ってます!!! (2020年3月18日 7時) (レス) id: 73f9f96d98 (このIDを非表示/違反報告)
聖(プロフ) - はじめまして いつも更新を楽しみにしています。 これからも頑張ってください^_^ (2020年3月14日 12時) (レス) id: d507af1541 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:テル | 作成日時:2020年3月3日 13時