好奇心 【千side】 ページ17
ふと思いついて言うとAは少し考えてからコクンと頷いた。
隣に座らせてギターを持たせてやる。
まだ体の小さいAにはギターは大きくて支えてやらないといけなかった。
持ち方や弾き方を教え、ゆっくりと簡単なコードから教える。
Aの覚えの速さはすごかった。
初めは苦戦していたが、ものの数十分で教えたことを全て覚えてしまった。
それどころか、短いフレーズだけど曲を奏でることまで出来た。
短いけれど、頭に残る曲調。
「…すごいな。A、作曲とかしたことあるのか?」
『…少しだけ。』
そう言うAの顔は少しだけ曇る。
…そうか、柊雨の時か。
Aにとっては嫌な記憶の一部なんだろう。
だけど、Aに才能があることは間違いなかった。
楽器を弾く才能も、作曲の才能も、この子は持ち合わせている。
…Aの作り出す音楽を知りたい。
「…A、曲作ってみなよ。」
考える前に思ったことが口から出た。
ずっと僕の隣で僕が作曲しているのを見てきたんだ。
Aも興味は湧いているはず…
『……ううん、作らない。』
「は?どうして?」
Aは首を横に振る。
予想外の返答に思わず声色が強くなる。
何か考えているAの言葉を待つ。
『……まだ作りたくない。中途半端な気持ちで作りたくないというか…千さんの仕事の邪魔、したくないから。』
「……"まだ"?」
『興味はあるよ。自分で自分の音楽を作ること。好きなように作ったことは無いから…。』
顔を上げたAの表情は穏やかだった。
それでいて好奇心旺盛な、どこまでも澄んだ眼。
「…そう、…………そう、か。」
Aの言葉にどこか安心した僕がいる。
今でなくても、いつかきっとAの音楽を聴くことが出来る。
きっとAの曲は誰もが好きになるだろう。
…そうだ、僕はAに音楽の世界にいてほしいと思っている。
…万が僕にそう願ったように。
だけど、モモはどう思うだろう。
聞いてみようか。
どちらにせよ、Aをこのまま本漬けの生活を送らせるわけにもいかない。
仕事なんてできる年齢じゃないし、Aに学びたいことがあるなら学校にも行かせてやりたい。
だけど、学校に行かせるためのお金が無いことも事実。
…モモに相談しよう。
そう決めて時計を見ると針は5時を指していた。
「…あ、スーパーのセールの時間だ。買いに行かなきゃ。…Aも行く?」
『うん、行く!ついでに図書館に本返しに行ってもいい?』
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欅夏希 - とっても面白いです!感情の変化や状況などが分かりやすく、読みやすいなぁと個人的には思っています!お話を作るのは簡単ではないかもしれませんが、続きを読めるのを楽しみに待たせて頂きます。無理なさらず、頑張って下さい。 (2020年3月27日 22時) (レス) id: 94cd216a66 (このIDを非表示/違反報告)
柚木夏紗 - 面白いっ!!!!更新待ってます!!! (2020年3月18日 7時) (レス) id: 73f9f96d98 (このIDを非表示/違反報告)
聖(プロフ) - はじめまして いつも更新を楽しみにしています。 これからも頑張ってください^_^ (2020年3月14日 12時) (レス) id: d507af1541 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:テル | 作成日時:2020年3月3日 13時