【アイナナ】雨上がり、手を伸ばせば。 (ページ40)

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決意　【百side】ページ40

帰るときに矢島さんにAのことを話した。

矢島さんは泣きながら「ありがとう」と何度も言っていた。
Aのことは矢島さんが主治医たちにも伝えてくれるらしい。

それから、ひとつ気になることがあるから、明日は昼前に来てと言われた。
表情からしてすごく悪い内容では無さそうだけど、頷きながら不安になる。

岡崎さんに明日のレッスンを午後に変更してもらえないか電話すると、快く了解してくれた。
Aのことも伝えて、Aが退院するまでは地方の仕事はあまり入れないようにしてくれた。

…ありがとう、岡崎さんっ！！

Aが元気になるまでは、なるべく傍にいてあげたい。
でも同時に仕事も増やさなければ。
今の生活だって満足に暮らせていない。
ユキさんは演技の才能を発揮し始めている。
曲も少しずつだけど書け始めているようだった。

オレも頑張らなければ。

ユキさんが伸び伸びとまたステージで歌えるように。

Aがこれからずっと幸せに笑っていけるように。

…以前、一度だけ気になってユキさんに聞いたことがある。

Aのことが、ユキさんの重荷になっていないか。

オレがAに時間を割くせいでバイトも以前ほど出来ていないし、レッスンの時間だって以前より減っている。
そのことをAがまだ柊雨だった時、つい先を考えずにポロッとこぼした。

オレの言葉にユキさんは見たことないくらい怒った。

「あの子はモモくんにとって大事な人じゃないのか」

「時間もお金も僕も、いつ死ぬか分からないあの子より大切なのか」

そう怒鳴っているユキさんの表情は苦しそうで、悔しそうだった。

きっと、バンさんのことを思い出しているのだろう。
そんな顔はさせたくないのに、オレがさせてしまった。
泣きそうになって謝ると、ユキさんも「怒鳴ってごめん」と謝った。

「モモくんの大事な人は、僕にとっても大事な人だから」と言われて、嬉しくて泣いてしまった。

ユキさんはまだバンさんを探している。

ベッドにいるAを見て時々ツラそうな表情になるのも知っている。
だけど、ユキさんは時間があればAの顔を見に行く。

優しいんだ、本当に。

オレはオレに出来ることをしよう。精一杯。全力で。

ずっと変わらない思い。

ユキさんのために。

Aのために。