【アイナナ】雨上がり、手を伸ばせば。 (ページ39)

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はじめまして　【百side】ページ39

だいぶ落ち着いてきたようで、ゆっくりと体を離す。

顔を覗き込むとまだ目には涙が溜まっていた。
笑って指で拭ってやると、少し照れたように笑い返してくれる。

「…オレ、君の兄ちゃんでもいい？」

彼女は微笑んで頷く。
嬉しくてギュウっと、今度は強く抱きしめた。

しばらくして離れたところでユキさんが溜め息交じりに言う。

「…いつまで"君"呼びするの？」

「あ！そうだ！！」

決めてなかった、名前！！

いや本当にオレが決めちゃっていいのか分かんないけど！！
でもこれから呼ぶのに困るし…。

ジッとまだ少し目の赤い顔を見る。

…うん、可愛い。

まだ、満面の笑みというのは見たことが無いけど、きっと笑ったら花が咲いたようにもっと可愛いんだろうな。
雨降りよりも、晴天の方がずっと似合う。
悲しそうな顔より、幸せそうな顔の方がいい。

「………A。」

頭に浮かんだ名前を口に出すとしっくりきた。
もう一度、今度はしっかりと。

「…A。君の名前！春原A。……どうかな？」

「ふふ、いいね。よろしく、A。」

ユキさんが微笑んで頷く。

Aはまだポカンとしている。

「……いい？Aって呼んでも。」

もう一度、目を見つめて問いかける。

Aの顔がクシャと歪んでまた目から涙が零れた。
でも、大きくコクンと頷いてくれる。

「…あはは、良かった……。もう、泣きすぎだってば～！」

そういってまた涙を拭ってやると、Aが照れたように笑った。

初めて見る、Aの笑顔。

泣きながらだったけど、嬉しそうに笑っている。
なんだかオレも泣きそうになって、というか泣いてしまってまたAを抱きしめた。
途中でユキさんも(オレが無理やり)参加して、３人で満足するまで抱きしめ合った。

この日から、柊雨は春原Aになった。

まだ戸籍の問題とかは残ってるけど、これからゆっくりでも解決していけばいい。

降り続けた雨がやっと止んで太陽が濡れた地面を照らしている。

また明日来るねと別れる時のAは、憑き物が取れたように緊張も無くなって、穏やかに笑っていた。