【アイナナ】雨上がり、手を伸ばせば。 (ページ32)

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気付いたことと気付かなかったこと　２　【百side】ページ32

ナースコールで叫ぶように看護師さんを呼ぶと矢島さんが飛んできた。

すぐに検査をした。
レントゲンを見せられて、主治医に言われた。
食道と胃が酷く荒れているそうだ。

原因はおそらく何度も嘔吐しているからだろうと言われた。
現状で命に別状はないとはいうものの、このままだとますます雨は弱っていくだけだ。

矢島さんが雨に話を聞くと、ほぼ毎日嘔吐が続いていることが分かった。
食べたものをその日のうちに吐いてしまうらしい。

全然気が付かなかった、毎日のように顔を見ているのに。

どうして言わなかったの？と問う矢島さんに、心配かけたくなかった、と紙に書く雨。
矢島さんが雨を叱る。

雨は困ったような表情をしていた。
ごめんなさい、と謝る雨。

矢島さんが出て行って病室に２人きりになる。

雨を見ると不安そうに視線を宙に泳がせている。

……あぁ、そうか。

【怖いんだ。】

雨は、オレに怒られると思ってる。

きっと雨は叱られたことが無いんだ。
愛を知らないんだ。

「雨。」

できるだけ優しく呼ぶけど、雨の肩は小さく跳ねる。
しゃがんで目線を合わせようとすると、おずおずと雨もオレの方を見た。

「なんで、矢島さんが雨のこと叱ったか、分かる？」

雨の瞳は微かに揺れていた。
オレに怯えていることが分かった。

…あぁ、信頼されることって、…心に傷を癒すことって難しいんだな。

雨は小さく首を横に振る。

「…矢島さんはね、雨のことが大好きなんだよ。もちろん、オレも。ユキさんも。」

雨の目が少しだけ開かれる。

「大好きだから、雨が苦しかったことを言ってくれなくて、気付いてあげられなくて、悔しくて、心配なんだよ。」

これは、半分オレの気持ち。

「苦しい時は、ちゃんと言って。
雨が苦しいって言っても、誰も怒ったりしない。もう雨は一人じゃないんだから。泣いても、怒ってもいい。誰も殴らない。悪いヤツはオレが全部倒してやる。
だから……」

だから？

考える前に言葉が出た。

「無理やり笑わないで。」

雨が大きく目を見開く。

…そうか、ずっと頭に引っかかってたこと。

【雨の笑顔が本物じゃないって、気付いてたのに気付かなかったんだ。】

でも雨は、困ったように表情を曇らせた。

「…ごめん、困らせるつもりは無かったんだけど…。何でも自分が悪いと思わないで。オレ達がいる。」

雨は頷いて、小さく微笑む。

…言葉で伝えるって、本当に難しいことなんだな。

また明日来ると言って、病室を後にした。