【アイナナ】雨上がり、手を伸ばせば。 (ページ22)

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矢島さん　【百side】ページ22

翌日。
昼過ぎにはバイトをあがらせてもらった。

病院に行って、受付で雨ちゃんの病室を教えてもらった。
看護師さんが言っていたように一般病棟に移っているようだ。

病室に入ると昨日の看護師さんが居た。

オレを見ると看護師さんは笑って、「待ってましたよ！」と言う。

促されてベットの横に置かれた椅子に座る。
ベットを挟んで向かい側に看護師さんが座った。

ベットには顔に大きな絆創膏を張ったままの雨ちゃんが眠っている。
だけど、昨日より機械に囲まれていない。
さっき人工呼吸器も外れたのだと教えてくれた。

看護師さんは矢島〔やじま〕さんという名前らしい。
新人で雨ちゃんが入院した時から担当なんだそうだ。

「私、Re:valeのファンなんです！千くんと百くんの初ライブ、すっごくかっこ良かった！」

嬉しそうに矢島さんは言う。

初めて真正面からそんなことを言われて嬉しいという気持ちが沸き上がると同時に、暗い気持ちが沸き上がる。

「…あ、ありがとうございます。」

笑って言ったつもりだったけど、何かに気付いたのか、矢島さんは悲しそうな笑顔を浮かべた。

「…Re:valeのことは、万理くんと千くんの時から知ってます。」

ドキッとした。
顔が強張る。

矢島さんは言葉を続ける。

「…初めは、辛かった。どうして、万理くんじゃないの？って。新しいRe:valeのライブに行ったのも、千くんとどんな人が一緒に歌ってるのか、見に行ってやろうって。」

ぎゅぅと心臓を掴まれた気分だった。

…あぁ、やっぱり。
みんな、思ってることは同じなんだ、って。

「でも、一生懸命に歌って踊ってる百くんを見て、楽しそうに音楽をやってる千くんを見て、涙が出たんです。嬉しくて。」

「…え？嬉しい…？」

「…百くん、ありがとう。私、前のRe:valeも好きだけど、今のRe:valeも好きです。応援してます。」

矢島さんの笑顔から悲しさが無くなっていた。

…こんな風に思ってくれる人もいるのか。
嬉しい。
でも、素直に喜べない自分がいた。
だって、オレは……。

「…ありがとうございます。嬉しいです。」

無理矢理笑ってそう言った。

「……あの。嬉しいんですけど、なんで今…？」

少し感じていた疑問を投げかける。
今日は雨ちゃんのことを聞きに来たはずだ。

「…ごめんなさい、ファンだったので。…という理由もあるけど、これから話すことが結構重たいので。……そろそろ話します。」

そう言って、矢島さんは雨ちゃんを見た。