【アイナナ】雨上がり、手を伸ばせば。 (ページ14)

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九条鷹匡ページ14

九条鷹匡。

伝説のアイドル、ゼロのマネージャーをしていた男。

「僕の所に来ないか？」

会って最初にそう言われた。
優秀な才能を持った子どもを見つけて育てているらしい。

「君には誰にも超えられないくらいの素晴らしい才能がある。」

そう言われても何も感じなかった。

九条さんは社長としばらく話してから、私を九条さんに託すことに決めたようだ。
ただ、私はまだ事務所所属のままであり、レッスンを受けに行く、という形での契約だった。

すぐに九条さんと一緒に海外へと連れて行かれた。
初めての海外だったけど、困ることは無かった。
言葉も話せたし、九条さんに連れてこられた同じ日本人の子どももいた。

レッスン場で初めて会った時、天使みたいな人だなと思った。

互いに自己紹介をしてレッスンを受ける。

「九条天」という名前らしい。
九条さんの養子で、九条さんもその子にすごく期待しているのが見ていて分かった。

天さん、と呼ぶと、呼び捨てでいいと言われた。
初めて人を呼び捨てにした。

天はいつも真剣だった。
足の先から指の先まで妥協をしない。
それでいて楽しそうだった。
きっと最高のアイドルになるんだと、ゼロを超えるくらいになるんだと言っていた。

そんな天を九条さんは満足そうに見ていた。

私も天と同じメニューをこなしていった。
言われたとおりに、完璧に。

「……拍子抜けだね。君は人形みたいだ。」

私を見て九条さんはそう言った。

「ねぇ、雨は何のために歌ってるの？」

レッスンの合間、天がそんなことを聞いてきた。
何のため？

『それが私の仕事で役割だから。』

そう笑って答えると、天は驚いたような表情になってから、「そう」と呟いた。
汗を拭いて立ち上がった天が真っ直ぐに私を見て言った。

「キミにはアイドルは向いてないよ。」