【アイナナ】雨上がり、手を伸ばせば。 (ページ11)

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柊雨　【千side】ページ11

「なぁ千、知ってるか？話題の柊雨って子。」

「…知らない。誰。」

万の家で野菜スティックを齧っていると、万が聞いてきた。

珍しい。万の方から女のことを話すなんて。
…たぶん女。だと思う。

「天才子役って呼ばれてる女の子だよ。……あぁほら！今映ってる子。」

視線を万からテレビに移すと、満面の笑顔でインタビューに答えている女の子が映っている。

「万ってこういう子が好きだったの。…ロリコン？」

「馬鹿ッ！そんなわけあるか！」

若干引き気味にそう言うと、鬼の形相で否定された。

「…はぁ、そうじゃなくて。歌だよ、歌。この子、まだ８歳なのに大人顔負けに歌が上手いんだ。……ほら、」

万がパソコンで動画を見せてくる。
なんかの音楽番組の映像で、さっきのテレビの女の子がステージで歌っている。

……確かに上手い。
技術も、表現力もある。

……けど、

「……死んでるみたいだね、この子。」

ポリ、とキュウリを齧る。

「死んでるみたいって…どういうことだ？」

万が眉をひそめて聞いてくる。

「上手いけど、歌から何も感じない。歯車が回っている間、記録されたとおりに動く人形みたいだ。」

「…………」

「音は聞こえているのに、音が聞こえてこない。この子には、音が無い。」

柊雨が歌い終わって、お辞儀をする。

拍手と歓声に包まれていた。

画面から視線を外して万を見ると、驚いたような顔をしていた。

「…何。」

「いや、珍しいなと思って。」

「何が？」

「いいや、何でもないよ。…あ、もうすぐ特売の時間だ。ちょっと行ってくる。」

そう言って立ち上がった万を野菜スティックに手を伸ばしながら見送る。

人格と音楽は連動しない。

この前会ったムカつくやつでも、そいつから生まれる音楽は少なからず想いがこもっていた。

見た目だけでキャーキャー言うやつもいる。
目立ちたいだけでステージに立つやつもいる。
そういうやつを見ていると、腹が立った。

何の想いも無い歌なんて、ただの音が並んでいるだけだ。

さっきの歌を聴いても、何も感じなかった。
だけど、腹は立たなかった。

可哀そう。

歌に対してじゃない。
歌ってた女の子に対して、なぜかそう思った。

ポリッ、とニンジンを齧った。