7話目 ページ8
ばっ、と目が覚める。
最初に視界に映ったのは、真っ白な天井だった。
薬品のツンとした匂いが鼻に入ってくる。
ここは、病院だろうか。
私が上半身を起こすと、視界の下の方に見慣れた黒髪が。
『は、白兎？』
驚いた私が思わず声を上げると、白兎はゆっくり目を開ける。
｢んん..｣
まだ少し寝ぼけているのだろうか、目を擦りながら欠伸をした白兎は、私を見るなり目を丸くした。
｢A、起きた｣
若干掠れた声がなんだか面白くて
少し笑いながら頷くと、全身をギュッと抱き締められる。
｢良かった、俺、このまま起きなかったらどうしようかと..｣
まるで私の存在を確かめるようないつもより強めのハグに、私も負けじと抱き締め返す。
..抱き締めてから気付いたけど、白兎、もしかして泣いてる？
｢A、もう、何処にも行かないで｣
『行かないよ、白兎から離れたくないもん』
やっぱり震えた声にそう返すと、肩の後ろから小さい笑い声が聞こえた。
少しは元気になってくれたかな。
2人でしばらく抱き合ったあと、白兎から何故病院にいるのか訳を説明された。
どうやら白兎に発見された時の私は脱水症状に陥っていたらしい。
そのため慌てて病院に搬送され、今に至るということだった。
｢ほんとに生きててよかった｣
病院をでた帰り道で、そう言いながら私の頭を撫でる白兎。
何故か他の男の人の手は少し怖いんだけど、白兎の手は安心出来るんだよね。
撫でて満足したのか離れていった白兎の手を掴み、ギュッと握る。
ギョッとしたようにこちらを見る白兎に、私は照れ笑いと一緒にある言葉を告げた。
『白兎、大好きだよ』
その言葉に白兎は一瞬目を見開くが、すぐにいつもの優しい笑みに戻る。
｢俺も。Aの事、大好き｣
そのまま壊れ物に触る様な優しいキスが落とされ、2人で目線を合わせて笑い合う。
私達はこの時確かに幸せだった。幸せすぎるほどに。
でも同時に、私は忘れ過ぎていたんだ。
コンビニの事を。小学生時代の思い出を。
そして何より、夢に出てきた声の主を。
1番、思い出さなきゃいけなかったのに。
1番、忘れちゃいけなかったのに。
この時に思い出せていれば。
私達の未来はもうすこし、明るかったのかもしれないのになぁ。
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作者名：みそ漬けキュウリで殴る | 作成日時：2020年7月30日 21時
