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工房の電気を久々につけると、
ひんやりとした空気のせいか、いつもよりしっかりと線のある室内に見えて。
後について入ってきた大野くんが、部屋を見渡す。
「お父さんいないから、今日は見せられないけどさ。すごいんだよ、ガラス作るの」
大野くんが口を半開きにして、天井を見上げる。
「天井、たか」
「うん」
「すげえな」
「あ、テラスからね、見える星空とかもすごいんだよっ」
閉め切ったカーテンを開けると、
一気に光が入り込んできて。
暗闇に慣れた目が、チカチカする。
「すげー綺麗じゃん」
隣で、窓からの景色を眺めた大野くんと肩が触れて。
初めてこんな近くに立ったことに気付いた。
「うん。この景色、大好き」
「・・・」
「大野くんも、いろいろ好きになれるといいね」
あ、また余計なことを言ってしまった。
と思ったけど。
大野くんは何も言わないで、窓の外を眺めてた。
そのあとも、いろいろ工房の中を見せて回って。
大野くんは文句一つ言わないでついて来た。
「そろそろ冷えてきたね」
「うん。さみーや」
「・・・ね」
本当に。
会話も冷めてきた。
大野くんも、近くにあったガラスなんかを手に取って。
くるくる回してみたり。
「・・・あの部屋は？」
「え？あー・・・これはねー、時々お父さんが絵を描く部屋」
「へー・・・」
「見る？」
「・・・」
あんまり私も訪れないその部屋は。
眺めのいい大きい窓に、画材とかの置かれたラック。
そして中央に、イーゼルが置かれているだけの場所。
電気をつけてやっと明るくなったその部屋に、大野くんが長い息を吐き出す。
「なんもないでしょ」
「・・・」
「・・・大野くん？」
「絵も描けるんだ」
「うん。昔は絵でお金もらってたんだよ」
「・・・すげーな」
「大野くんも、絵、好きなの？」
「うん」とは言わないけど。
大野くんがイーゼルに触れた手が、好きだと言ってて。
「美術部入ったらいいじゃん」
「そんなん嫌だよ」
「なんでよ」
「描かなきゃいけない時が決まってるじゃん」
「まあ、部活だしね」
大野くんが、あまりに切なそうにするから。
優しさなんて、これっぽっちも貰ったことないけど。
「じゃあ、ここで描けば？」
「・・・え、」
「お父さんに聞いてみてからだけど。全然使ってないから、多分いいって言うと思うよ」
「・・・」
「そしたら、好きな時に描けるよ」
初めて大野くんが首を縦に動かして。
「うん」って。
そう言った。
全然、優しくされたことなんてないのに。
その横顔を見ただけで。
心が、あったかくて。
ぽかぽかした。
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作者名：ネズム | 作成日時：2019年12月27日 22時
