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◇36 ページ36
好きなものを数えていきなさないって。
お父さんの言葉。
それだけを信じて生きてきて。
でもこんな。
好きなものすら忘れちゃうような、この余裕のない気持ちを。
恋というのなら。
流行りの音楽の流れる、流行りのお店。
目の前にある、かき氷の残骸が。
ぷかぷかと透明なグラスに浮かんでいる。
「最近俺たちしかいなくね？」
「ニノ不満そうだねえ」
「不満でしょそりゃ。イケメンとちんちくりんと過ごす夏休みなんてさあ」
「どこぞのちんちくりんは、心ここに在らずだしなぁ」
隣に座った潤ちゃんが、お〜いって私を見る。
その顔は、案の定にやついている。
「なに？」
「Aはちんちくりんでいいわけ？」
「別になんでもいいよ」
「いいんか〜い」
「いやどういう感情なのそれ」
「なんでもいい。もうなんでもいい。どうせ私なんて誰にもちんちくりんじゃないって否定してもらえないし」
「相葉さんがいるじゃ〜ん」
「雅紀は違うもん。お兄ちゃん・・・・というか
パパだもん」
「アラマ〜」ってニノが意地悪そうに笑う。
「大野？」
「え？」
「好きなんでしょ」
「あ、そうなん？」
「えっ・・・違う！違う！！絶対違う！！」
「まじか〜Aは結局ああいうのがタイプか〜」
ぽっぽ、ぽっぽ。
首筋が熱い。
熱いものが、どんどんとこみ上げてくる。
「二人に関係ないじゃんっ！！」
「あっ、大野だ」
ニノが指差した先を、体が自然に追ってしまう。
振り返った先には、大野くんなんていなくて。
こみ上げた恥ずかしさが、爆発寸前に熱くなる。
「ひどいっ！！！」
「分かりやす〜このおバカちゃん分かりやす〜」
「うるさいうるさいうるさいっ！！！」
ニノが私をバカにして、指を指してくる。
隣の潤ちゃんも、楽しそうに笑っていて。
なんで、なんでなんで。
って。
悔しい気持ちが込み上げて。
「A、ごめんって」
「・・・、」
「ニノもやりすぎ」
宙ぶらりんの気持ちが、萎んでいく。
悲しくて、悔しくて。
私を、潤ちゃんが呼び止めるのを無視して。
店を出る。
夏休みで、いつもより人手の多い商店街の街並みすら。
余裕がない私には敵に見える。
好きなものって何。
全部、大野くんのせいでぐちゃぐちゃだ。
遠くで、大野くんが見えた。
大野くんと、隣で笑うで女の子。
目が離せずに立ち尽くして。
お願い、気づかないで。
私に気付かないで。
二人を見ていれば、もしかしたら消えていくかもしれないから。
諦めがつくかもしれないから。
大野くんが、笑いながら。
きっと、ふと。
それだけで。
私に気付く。
笑顔が消えて、目が見開かれて。
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作者名：ネズム | 作成日時：2019年12月27日 22時
