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◇４ ページ4
深い海の中。
ぶくぶくと。
沈んでいく。
もう二度と。
会うことがないその人の顔を。
最後に見た。
「気色悪い」
そう、聞こえた。
私の、一番嫌いな記憶。
玄関扉の開く音で目覚めたら。
真っ暗な部屋の中にいて。
こたつも入れられていないままで、肌寒い風が吹く。
「A？」
雅紀が私を呼ぶ声に起き上がったら。
パッと部屋が明るくなって。すぐ目の前に雅紀が立っていた。
「どうしたの」
優しく微笑みながら座って、私の頬に触れた雅紀の手で。
初めて自分が泣いていたことに気付いた。
「・・・夢、」
「うん」
「お母さんが、」
「うん」
目の前にあぐらをかいて座った雅紀が、カバンからタッパーを取り出して。
「ご飯食べよ」って私の前髪をぐしゃぐしゃにする。
「どーせなんも食べてないよ！って母ちゃんに持たされた」
「・・・ありがとう、おばちゃん」
「俺よりAの心配してるよ。ほんと」
「大好き」
あはは、って笑う雅紀と。
こたつに並べられたご飯。
「お米はチンするよ〜」って。
雅紀が立ち上がって台所へと向かう。
「おじさんは元気？」
「うん。毎朝、スタンプだけ届くよ」
「展覧会、２４日までだっけ」
「うん。だから、あと・・・６日間かな」
「大変だねえ」
「楽しそうだから、いいんじゃない」
「そっか。そうだよねえ」
昔から比べると。
びっくりするぐらい大きくなって頼れるようになった背中は。
いつ見ても、あったかくて。
「・・・ねえ雅紀」
「んー」
「大野くんに、嫌われちゃった」
「え？」
「私のこと、気持ち悪いって」
そんなタイミングで。
ピロリン！って。
電子レンジの軽快な音が響く。
「あっつ」って言いながら、ご飯を持ってきた雅紀が。
向かいに座って私を見た。
「Aのこと嫌う人なんて、俺がもっと嫌いになる」
「・・・」
「人のこと平気で気持ち悪いなんて言うやつは、心が荒んでるだけだよ」
雅紀は、ずっと変わらない。
「雅紀」
「ん？」
「大好きだよ」
「知ってるよ」
「・・・いただきます」
「いただきます。あー！お腹空いてたんだよねえ」
「私も」
「食べてないからでしょ」
直感で好きになった彼は。
すぐに「好きじゃない」フォルダに移り変わって。
それでも私の好きなものは何も変わらなくて。
だからこそ。
大野くん好きが大きくならなくて良かったとか。すぐ考えちゃう。
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作者名：ネズム | 作成日時：2019年12月27日 22時
