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◇17 ページ17
ばくばくって。
響く心臓の音。
これは、自分のもの？
無意識に走り続ける足が。
逃げ続ける私を。
振り返ったら、大野くんが私を見つけて走ってきていて。
「こないで！！」
「ちょっ、待てって！！」
「嫌だ嫌だ嫌だ！！！」
首が、じんじんする。
頬を伝う涙が、くすぐったい。
「なんで追いかけてくんの！！！」
「・・・わっかんない！！！」
「なんで雅紀じゃなくて大野くんなの！！！」
私の服の袖を掴んだ大野くん。
に引っ張られて。
足がもつれて。
二人して坂道を転がる。
すりむけた肘と膝が痛くて。
尚更泣けてくる。
肩を上下にさせている大野くんと、目があって。
悔しくて両手で涙を拭った。
「こないだも、今も、なんで泣くの」
そんなの、大野くんには分からない。
言っても、絶対分からない。
「大嫌い、」
絞り出した言葉で。
息を詰まらせるような、首筋の熱さが消えていく。
「大野くんなんて大嫌い、」
大野くんが、手を伸ばして。
手の甲を押し付けるみたいにして、私の涙を拭う。
「嫌い、嫌い、大嫌い、」
「・・・うん」
「ほんとだもん、ほんとに本当に大嫌い」
「うん」
「大嫌いなんだもん」
「うん」って。
大野くんは聞いてくれた。
あまりに乱暴な手つきで。
私の涙を拭いながら。
雅紀が、ガーゼの上からぐるぐると包帯を巻いてくれる。
伏せられた雅紀の睫毛を見つめていると、視線に気付いた雅紀が顔を上げて微笑む。
「痛い？」
「いたい、」
「ほら、ちゃんと目冷やして」
泣きはらした目に当てる、保冷剤が冷たい。
台所にいるお父さんが、横目で私たちの方を見た。
「大野くんが追いかけてきて、びっくりした」
「ん？」
「雅紀が迎えにきてくれると思ってた」
「大野くんがさ、自分で行くって」
「・・・、」
「すごい必死な顔だったからさ、俺が行くって言えなかったよ」
「・・・、ありがとう」
「なんで？」
「雅紀のことは、ずっと大好き」
あはは、って。
いつもの、晴れみたいな笑顔で笑う雅紀が。
私の前髪がぐしゃぐしゃになるほどに撫でる。
でもなんで。こんな時でも。
私は大野くんの、涙を拭った乱暴な手ばかり思い出すんだろう。
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作者名：ネズム | 作成日時：2019年12月27日 22時
