時代の闇は、深く、黒く。 ページ6
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結局貞治は、蓮二の誘いを断った。
蓮二はあの手この手で貞治を連れ出そうとした。それでも、終いには折れて仕方なさそうにまた軍へと帰っていった。
一件落着。これでまた貞治は大学へ行けるし、私もまた夢を追える。
……そう思ったのも、束の間のことだった。
ある日、貞治が私を訪ねた。
彼の手には、一枚の紙が握られていて。
「……軍へ行くことになるかもしれない。」
ただ一言、私にそう告げた。
初めは、理解ができなかった。でも、彼の持つ紙は本物で。信じるしかほかに道はなくって。
「だから、大学もやめることになる。……もう、お前に飛行機のことを教えることも出来ない。」
「そんな……」
不意に、私の脳裏に浮かんだのは、蓮二の顔だった。
まさかこれも、蓮二の策略?
「お前が蓮二のせいだと思っている確率、100パーセント。」
「っ」
「……まあ無理もない。あんなことがあった以上はな。」
貞治は諦めたように言って、ふっと笑った。
お願い。やめて。行かないで。貴方までも、夢を恐怖に変えないで。
けれど、私がいくら言ったところで、そんな願いは届かない。
夢見た飛行機は未完成のまま。骨組みですら建てることも出来ず、やがて貞治は紺の軍服を纏い、私の前から姿を消してしまった。
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作者名:幻想曲 | 作者ホームページ:http://uranai.amanoboru
作成日時:2015年12月23日 2時