約束を、約束を。 ページ5
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「貞治……」
私が貞治にそう言っても、貞治はうつむいたまま何も言わない。
「……A……」
ようやく呼んだ私の名前。肩に手を置いた私に、貞治は続けた。
「……俺は、今まで一度も飛行機を脅威にしようなんて思ったことはないよ。ただ、純粋に、空を飛びたくて……それだけで……」
「うん……知ってるよ……」
「蓮二も、そんな人間だったんだよ。そんな人間だった、はずなのに……」
言葉が途切れた。なんとなく、貞治の言いたいことが分かった気がした。
空を飛びたい、と願う気持ちは、私も一緒だ。もちろん、蓮二だって。
でも、それは、もう蓮二にとって過去の話。
今の蓮二は、違う。
(……ああ……)
わからない。こんな気持ちをどこにぶつけていいのか。
私も、貞治も、小さい頃の純粋な気持ちを、ただ大切にしている。それだけ、なのに。
それなのに。
「……貞治……」
「っ……」
貞治の眼鏡の下を、透明な雫が伝った。
国は、時代は、今や、幼い子供の純粋な思いさえも、奪い取って呪うというのだろうか。
それは、本当に、正しいことなのだろうか……
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作者名:幻想曲 | 作者ホームページ:http://uranai.amanoboru
作成日時:2015年12月23日 2時