【テニプリ】トリップした私には『使命』がありました。２【立海】

５５．怪我 ページ6

丸「おーい、秋月」

貴「何か？」

桑「こいつが怪我しちまったみたいなんだよ」


彼らが指すのは２年の１人の男の子。


レギュラーでもなんでもなく、先輩方が引退してもレギュラーになれる見込みは全くない。

本人はそのことにいたく劣等感を覚えているらしく、休憩時間でさえ休まず練習に励んでいる。

感心はしていたが、無理して体を壊すんじゃないかと、少し心配している。


「いいよ、俺は……。アンタは期待されてるマネージャーじゃねえか。全国大会まであとそんなにねえんだから、レギュラーの先輩方を心配してろよ」

痛そうに押さえている膝からの血が止まらないらしい。


全く、卑屈になる気持ちも分かるが、しかしそんな言い方はないだろう。


貴「私は期待されてなんかいないよ。……そこの水道で、洗い流してきて」


分かった、とポツリ呟くとその子は少し悲しそうに歩いていく。

膝を洗い流す姿が、とても哀れを誘っているようで、私はそれに苛立つ。


丸「おい、手当てとかしねえのかよ」

貴「するに決まってるでしょう。何のためのマネージャーよ」

丸「は？でもお前今、洗い流して来いって……」

貴「言ったけど？」

丸「？」

貴「？」

可笑しい。

どうにも話が噛み合ってない。


あ、さっきの人戻ってきた。


貴「はい、じゃあそこのベンチ座って」

「は？」

貴「練習に戻ろうとしないでよ。まだ手当ては終わってないからね？」

私はその人を強引に座らせると、包帯を救急箱から出す。


「え、そんな酷い怪我じゃ」

貴「分かってる。けど、まだ練習してくでしょう？膝とかいっぱい動かすんだから、また血がいっぱい出るよ。絆創膏じゃ、駄目。練習が終わるまでは大人しく付けてて。終わったら好きにして構わないから」


膝が固定されて動かしくならないように最大限の注意を払いつつ、私はささっと手当てを終わらせた。


「秋月ー！ちょっと練習メニューのことで相談あるんだけど」

貴「あ、分かりました先輩。……包帯でも血が抑えられない場合はまた言って。それと」

私は、溜めた苛立ちをぶつけるかのように、しかし彼の目をみてしっかりと言った。


貴「確かにレギュラーの人達より貴方は弱いけど、でもそれは決して貴方が不当に扱われていい理由にはならないし、自分の努力を自分で馬鹿にしていい理由にもならない。そこ、間違えないでね」


驚いたように表情を堅くする名前も知らない彼に、私は背を向け先輩の方へと向かった。

５６．帰路→←５４．夏休み

→ 目次へ｜作品を作る｜感想を書く
他の作品を探す