184話 約束の話 ページ48
不「あ、今はまだとかなら断っていいからね。タイミングは色々あるし」
貴「いや気まずっ! わかってて言ってるでしょ!」
とは言いつつ、断っても不二先輩はわかってくれると思う。本当に今思い出したようだし。
一応考える素振りを見せるが、私の性格上、先輩といることに少しでも苦痛があったら、こんなに付き合いは続いていない。
私だって、いつかは、と思うこともあった。まさか切り出すのがこんなタイミングとは思わかなかったが、先輩もそう思っていたのだと思うと、今にもにやけてしまいそうになる。
腕を組んで熟考したフリをして、私は表情を読まれないよう、首を捻りつつ応えた。
貴「いやまあ、むしろよろしくお願いします……?」
しどろもどろな私の言葉に、英二先輩が勢いよく立ち上がった。
菊「結婚おめでと〜!」
貴「それは気が早すぎでは?!」
英二先輩につられて河村寿司が拍手に包まれる中、元凶の不二先輩がくすくすと肩を揺らした。
不「そうだね。Aももう少し色々落ち着いてからの方がいいよね」
貴「そういう話?!」
不「嫌?」
貴「そういう話じゃなく!」
不「そのうち指輪買いに行こうね」
貴「だーかーらー!」
完全に私をからかい始めた先輩に対して、私の混乱が限界を超えそうになった時、空気を入れ替えるように、スっとお盆に置かれた人数分のお茶が差し出される。
河「責任もって幸せにしなきゃね、不二」
河村先輩がお茶を配りながら、不二先輩に優しく微笑んで、真面目な口調で言う。
不二先輩は頷きながら、「あ、でも」と思いついたように続けた。
不「Aは多分、勝手に幸せになるだろうから、振り落とされないようにするよ」
項垂れる私と盛り立てる周りに宣言するかのように、先輩の声が一途に響く。
「現在進行形で振り回されているのはこっちだ」と反論したいところだったが、周りはお酒が入っていることもあってか、調子づいて囃し立てるので口を挟めない。
私は両手で顔を覆って「滅びよ……」と覇気のない声で呟いた。
海「平等院かよ」
律儀に海堂がツッコミを入れてくれるが、それに反応する気力がない。
海堂の横では乾先輩がアナログのノートを手にとって何かのページを開き、中指でメガネを押し上げていた。嫌な予感がする。
乾「5年後までに結婚する確率……」
貴「乾先輩マジで黙って」
火に油を注ぐ乾先輩を押しとどめ、恥ずかしさを振り払うように勢いに任せて酒の入ったコップを呷った。
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作者名:葉奈 | 作者ホームページ:http://uranai.nosv.org/u.php/hp/hana1/
作成日時:2022年8月26日 17時