173話 不二周助の欲心4 ページ37
眠気は一気に消え、そのままベッドから降りてカーテンを開ける。まだ8時だと言うのに日差しは強く照りつけ、地面に狭く濃く影を落としている。
間を開けても仕方が無いので、Aに『連絡ありがとう。練習頑張ってね。もし今日会えなさそうなら、今度でも大丈夫だから、無理しないで』と返信をする。
何度も読み返すが、自分では正解が分からない。もしも『じゃあ話はまた今度』と言われたらどうすればいいのか。こんな小さなやり取りすらも、今は酷く怖かった。
下のリビングからは家族が動き出す音がしていて、とくに午前中の予定はなかったが、とりあえず降りることにした。
リビングをのドアを開けると、母がキッチンで朝食を作り、姉さんが化粧を終えてテレビを見ながら朝食を食べていた。
不「……あれ、裕太?」
裕「げっ、兄貴。休みなのにもう起きたのかよ」
リビングの端で、裕太が振り返って眉を寄せている。
姉「だから言ったじゃない。きっとそろそろ起きてくるわよって」
裕「とっとと出ればよかった」
姉さんと裕太のやり取りに首を傾げていると、母が近くまで来て僕をテーブルに誘導する。そのまま僕の朝食をテーブルに置くと、2人のやり取りに笑いながら僕を見た。
母「裕太も、今日部活お休みで、忘れ物があるってわざわざ取りに来たのよ。だからご飯食べていけばって言ったの」
不「そうだったんだ。おかえり、裕太」
裕太を見て微笑むと、座りが悪そうにソファの上で体を捻った。
家族で朝食を食べ終えると、姉がインタビューがあると言って仕事に出かけた。母も近所の人とランチ前に買い物をするらしく、9時過ぎに家を出た。しかし2人とも、裕太が居るならなるべく早く帰ると言っていたので、おそらく夕方には父以外の家族が揃うだろう。
2人が居なくなると案の定、裕太がソワソワとしだす。僕と2人は少し気まずいが、母と姉が早く帰ってくると言った以上、寮に帰りづらいのだろう。
そんな気持ちを察しつつ、午前中は久しぶりの兄弟水入らずに浸って雑談をしながら、いつものように裕太をからかっていると、不意に携帯にメッセージが入る。
思わず動きを止めるが、裕太の手前、直ぐに持ち直してメッセージを開く。相手は予想通りAで、何気なく裕太から少し距離を取った。
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作者名:葉奈 | 作者ホームページ:http://uranai.nosv.org/u.php/hp/hana1/
作成日時:2022年8月26日 17時