170話 不二周助の欲心 ページ34
『じゃあ、来週はそんな感じでいいかな』
電話口で、佐伯が体を伸ばす気配がする。
時計を見ると、どうやら1時間近く話し込んでいたらしい。
「ごめんね佐伯。長い時間」
佐『何言ってるんだよ、不二。合同練習なんだから』
僕が謝ると、佐伯はそうするのが当たり前だと、心から思っている口調でフォローをくれた。
佐『でも、俺たちが幼馴染って知ってるからって、連絡係まで任命されるとはね』
笑いながらそういう佐伯に、僕もつられて喉を揺らす。
あまり頻繁に連絡を取らないから、機会を貰えたのはありがたかったが、確かに顧問や部長の仕事だよな、と思うと、お互い自由な部活動だなとある意味感心してしまう。
連絡も終わり、そろそろ会話を切り上げようかと口を開いたところで、佐伯が『そうそう』とワントーン高い声で僕を遮る。
佐『Aちゃんとはどう?』
予想通りの問いかけに、僕は思わずクスリと笑って、自分の机からベットへと移動し、縁に腰かけた。
僕のその間にも、佐伯には確信があるようで、特に焦ることも無く僕の言葉を待っている。
不「変わらずだよ」
佐『そう。良かった』
分かっていても確認してしまうのは、幼馴染への心配か、思春期ゆえの興味か。
どちらにしても、気にかけてくれるのはありがたかった。
まだ中学2年の頃。久々に連絡の来た佐伯から、『九重Aって知ってる?』と連絡が来た時は驚いた。そして、その経緯を聞いてAらしいさに微笑ましく思いつつ、申し訳ないがお腹を抱えて笑った。
佐伯は学校名と苗字と、Aが語った自校のテニス部の分析を聞いて、僕のことを知っていると確信したらしい。
佐伯には、Aに対する自分の感情を伝えたことは無かったのだが、いつの間にか察していた事は気づいていたので、付き合いをはじめてから、一応Aに許可をとって報告をした。
Aは『私が恥ずかしくなければ許可とかいらないです』と言っていたが、どうせ急にこの話題を出されたら茹でダコになることは想像に容易い。免疫と、僕の楽しみも兼ねて、毎回聞くようにしている。
佐『付き合う前はヤキモキしたこともあったけど、付き合い始めたら、やっぱり安定してるな』
不「そうかい?」
佐『うん。なんか2人は安心してみてられるよ』
不「……ふふっ、そうかな」
佐伯の言葉に一瞬過ぎったものがあったが、直ぐに微笑みで返す。
すると、向こうから数秒の無言。
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作者名:葉奈 | 作者ホームページ:http://uranai.nosv.org/u.php/hp/hana1/
作成日時:2022年8月26日 17時