159話 幸村精市の独白3 ページ23
聡い彼女からそれを隠すように、僕は笑うふりをして目を瞑った。
幸「柳から聞いたんだよ」
貴「乾先輩か! あのおしゃべりデータマニア!」
柳の名前を出すだけで経路を察したAは、自分の先輩に謎のあだ名をつけて怒ったあと、「あっ、口止めすんの忘れた!」と自らの失態に頭を抱えた。
幸「周りに知られるの嫌なの?」
貴「嫌って言うか……なんか、知り合いに知られるの、こっぱずかしくないですか……? あ、これ嫌なのか?」
自問自答しながら呟くAに、僕は今度こそ心から笑った。
その複雑な気持ちは分からなくもない。
特にAはどちらかと言うと、仲良くなればなるほど、恋愛対象から遠くなるタイプだと思う。
初対面こそ、その容姿に惹かれる人は多いだろうが、知れば知るほど『友達』の関係の方が居心地がよくなる。それは青学を始め、関わりのある他校とのやり取りを見てても感じる。
それでも逆に、知れば知るほど、惹かれる人間もいる。
貴「あの、なので、幸村さんは絶対広めないでくださいお願いします!」
真剣な顔で、Aが両手を合わせて下げた頭の頭上に掲げる。
幸「ふふっ。どうしようかな」
貴「ええーっ!」
パッと顔を上げたAの、眉尻の下がった困り顔が、直後僕を陥落させた。
幸「言わないよ」
貴「ありがとうございます! さすが幸村さん!」
こんな小さな仕草で、言葉で、振り回されてしまうのがなんだか悔しくて。
幸「僕は言わないけど、柳は分からないよ」
貴「あっ! そっちか!」
Aのことが好きだ。
だから、少しの意地悪は許して欲しい。
君には伝えるつもりは無いから、だから赦して。この先、いつになるかは分からないけれど、この気持ちが憧れに戻るまで、仄かな灯火を抱えていることを。
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作者名:葉奈 | 作者ホームページ:http://uranai.nosv.org/u.php/hp/hana1/
作成日時:2022年8月26日 17時