【テニスの王子様】遠回しな君の隣５【不二周助】完結 (ページ22)

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158話　幸村精市の独白2 ページ22

　
読み終わった本を返せもせず、連絡もできず、勝利に縛られていく僕の心の片隅に、常に感じていた。
もう1度会って話がしたい、という思いと、今の僕を見て彼女は何と思うだろうという恐怖が、彼女への微かな思いに目を瞑らせた。

実はかなり粗暴で喧嘩っ早い、勝気で男勝りな性格だ、ということは、再会してすぐに分かったのだが、それでも、最初に感じた印象が覆ることはなく、むしろ新しい面を知った、と思えた。
それだけではなく、テニスではなく弓道をしていること。信念と目標を持って、日々前向きに、楽しく努力する姿勢。

再会して、そんな性格と、やはり感じていた通りの心の強さに憧れて、短い時間の中でそれが憧れだけの感情では無いことを、自覚していった。

Aが不意に顔を上げる。
目の前のケーキプレートは、僅かな痕跡を残しつつ、洗い物の必要が無いのではと思えるほど綺麗に完食されていた。

貴「幸村さん？」

幸「うん？」

貴「大丈夫ですか？疲れました？もうお店出ますか？」

しばらく無言だった僕を見て、Aが心配そうに僕の顔を覗き込む。

病気が完治したことは伝えてあるはずなのだが、Aはまるで子どもに聞くかのように柔らかい口調で問いかけてくる。

そんなAに小さく笑みを漏らしながら、僕は首を振った。

幸「大丈夫だよ。Aはよく食べるなあって思っただけ」

そう言うと、Aの目がパッと見開かれて、直後恥ずかしそうにそらされる。

貴「食い意地張っててすいません……」

幸「そうじゃなくて、美味しそうに食べるからいいねってことだよ」

僕の言葉に、それでも恥ずかしさを拭いきれない様子で、Aが「そうですかねえ」と両手でメロンソーダの入ったコップを持ち上げた。

そんなAに少しイタズラ心が働き、ずっと聞きたくて、でも怖くて避けていた話を、思い切ってふってみる。

幸「Aこそ大丈夫なの？不二がいるのに、僕と2人でお茶してて」

Aが飲み込みかけたメロンソーダを詰まらせてむせる。
胸に手を当てて、数回くぐもった咳をした後、Aが僕を驚いた様子で見つめる。

貴「ちょっと待ってください。なんでそれ知ってるんですか」

その答えに、やっぱりそうなのかと納得してしまう自分と、寂しさに押しつぶされそうになる自分がいる。

純粋な君の好意に、この気持ちは相応しくないのかもしれない。

彼女の笑みに幸せを感じながら、相反する心苦しさに息が詰まる。