166話 跡部景吾の決意3 ページ30
跡「それで？」
先程の呆れ返る声音から変化した俺に、Aの顔が上がる。
跡「どんなご褒美がいいって？」
俺の問いかけに、Aはまた呆然と目を瞬かせ、直後大きく首を振った。
貴「いやいや、別に本気にしなくても」
そういうやつだ。
図々しく俺にせびるくせに、俺が本気にして問いかけると一歩引く。俺の冗談も、本気も、こいつにとってはじゃれあいの範疇に過ぎず、友人……いや、先輩後輩からの枠組みからは抜けていない。
いい加減どうにか変えたいと思う反面、今更そんなことをしてどうする、と思う自分もいる。
相手がAではなく、Aの相手もあの不二ではなく、こいつらの関係性をここまで理解していなければ、今まで通り強気に行動出来ていたのかもしれない。
自嘲を隠すように鼻で笑い、俺は意識的に顎を反らせた。
跡「自分で言い出したんだろうが」
貴「ええ……」
自分の強引さに呆れる。
こうでもしなければ、こいつは俺に本気で要求することなどないのだろう。
Aが「ほんとにいいですよ」と手のひらを振った。
豪胆なくせに変に遠慮がちな気遣いが、今は酷く不愉快に感じる。ふつふつと苛立ちを覚え、俺は一歩、Aに近づいた。
跡「じゃあ、前に言ってた旅行はどうだ」
そう言うと、Aの首が取れるのではないかと心配になるほど左右に振られた。
貴「いやいやいやいやいやいや！ それこそダメですって！」
本気の否定が返ってきて、それがまた面白くない。
跡「俺様がいいと言っている」
貴「べ様の意思は知らんけど！ 私的にダメです！」
跡「アーン？ そんなに俺様と旅行に行きたくないってか」
貴「べ様と2人だったの？！ 尚更ダメでは？！」
跡「ああ、さすがの不二もそれはダメか」
その名前を出すと、Aの全てがピタリと止まる。不思議に思って「あ？」と声をかけると、Aがゆっくりと腕を組んだ。
貴「いやまあ、私的には跡部さんにも不二先輩に悪いのでダメですけど、不二先輩はどうなんすかね」
そう、真剣な顔で俺に聞くものだから、俺の中に可能性が生まれてしまう。
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作者名：葉奈 | 作者ホームページ：http://uranai.nosv.org/u.php/hp/hana1/
作成日時：2022年8月26日 17時
