105話 わがままで優しい ページ8
貴「不二先輩ほんと素敵です」
そう言って頭を下げると、何かを堪えるような不二先輩の声が降ってくる。
不「Aにそう言われると、すごく嬉しいよ」
貴「どうもどうも」
軽く言いながら、顔を上げて不二先輩の顔を盗み見るが、いつもと変わらない柔和で爽やかな笑顔が映る。
先輩はふっと顔を逸らして、店内に視線をめぐらせた。
不「種類が多いね。何処にあるのかな」
園芸店の閉店まであと30分。不二先輩の口調が少し早くなる。
目的のノースポールの名札を探す。幸村さんに事前に相談して、初心者向けだけど育てるのに少し手間のかかる花を紹介してもらったそうだ。植えっぱなしでも大丈夫というものを選ばないところが、何とも不二先輩らしい。
花の写真は先程調べたが、似たような形の花も結構あって、やはり名前を見ないことには何も分からない。
カタカナの並ぶ名札を見ていると、だんだんゲシュタルト崩壊がおこってきた。
貴「ありすぎてわかんなくなってきました」
私の言葉に、丁寧に花を見て回っていた先輩がフフっと小さく笑う。
不「植物は難しいよね」
貴「温度とか水の量とか日光とか大変そうですよね。先輩とか幸村さんとか白石さんとか、そういうの好きな人ってホントすごいです。なんかなんでも丁寧な人が多いイメージ」
不「確かに、Aは苦手そう」
クスクスと肩を揺らす不二先輩に、よくお分かりでと頷きながら、ノースポールを探す。
不「あっ。あった」
隣の列を見ていた不二先輩が、声を上げて立ち止まる。黄色を中心に白い花びらが広がる様子はマーガレットに似ているが、ノースポールは菊の仲間らしい。あんなに丸い花と仲間なんて、生き物って不思議だ。
貴「どれがいいんですかね」
不「うーん、幸村が言うには、半分くらい蕾だと育てがいあるよって」
貴「アバウト〜。幸村さんそういうとこある〜」
不「幸村らしいよね」
やり取りを思い出したのか、不二先輩がクスリと笑う。
数秒並んだ花を見つめ、何故か微かに首を縦に振り、視線を私に向けた。
不「A、どれがいい?」
貴「えっ」
思わぬ射撃に数秒固まる。というか。
貴「同じに見えるとか言った人間にそれ聞きますか。先輩だって『苦手そう』って言ってたし」
不二先輩が育てる花を私が選ぶなんて恐れ多い。何とか避けようとするが、先輩は楽しそうに笑みを崩さない。
不「Aに選んで欲しいんだ。だめかな」
そして、少し困ったように眉じりを下げる。あざとい。
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葉奈(プロフ) - はるるんさん» はるるんさんありがとうございます!ゆっくり更新ですがよろしくお願いします(*・ω・)*_ _) (2020年9月7日 20時) (レス) id: c1c4e29ce5 (このIDを非表示/違反報告)
はるるん(プロフ) - 葉奈さん» 葉奈さんこそお疲れ様です(*´-`)疲れを取ってから更新してくださいね(^_^) (2020年8月31日 23時) (レス) id: 3a9f70176a (このIDを非表示/違反報告)
葉奈(プロフ) - はるるんさん» ありがとうございます!仕事お疲れ様です!1度でもいいから終わらない夏休み経験したいですね( ;∀;)更新遅いですがよろしくお願いします! (2020年8月30日 1時) (レス) id: c1c4e29ce5 (このIDを非表示/違反報告)
はるるん(プロフ) - 毎回面白くて更新楽しみに待ってます(^ ^)私も仕事をしているので終わらない夏休みがあるマダオが羨ましく思います笑 (2020年8月18日 22時) (レス) id: 3a9f70176a (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:葉奈 | 作者ホームページ:http://uranai.nosv.org/u.php/hp/hana1/
作成日時:2020年8月11日 1時