130話 部室=尋問室 ページ43
奏「で?」
目の前で、奏恵が眉間にしわを寄せ、唇の端を引きつらせながら私に問いかける。いい加減にしろといった表情に、もうごまかせないか、と私は観念して口を開いた。
長雨が、暖かさとともに春を運んできた。雨は2日前から上がり、柔らかな日差しと風が体を押す季節。そんな穏やかな季節の始まりに、私の心境はそんな麗らかな空気とは逆方向を爆走していた。
数日間、授業や休み時間、部活ですらどこか身の入らなかった自分を思い返しながら、気持ちを落ち着かせつつ、整理をつけるためにも、私はゆっくりと奏恵に説明した。
まず先週、不二先輩に会ったこと、そこで話をして、なぜか告白されたこと。
ここまで話して、奏恵は「マジかよ!」と拡声器でも使ってんのかと思うほどの大声を、誰もいない早朝の部室に響かせた。部室に誰もいなくて助かった。
奏「で? 付き合うことになったの?」
緩んだ口元を隠そうともせず、ずいっと顔を寄せてくる奏恵から少し離れ、私は静かに首を振った。すると今度は鬼のような形相と威圧的な口調で、「は?」と私に近づく。
奏「どゆこと?」
貴「なんかびっくりして、その場で言葉が出なくて黙っちゃって……そしたら先輩が『言いたくなっただけだから、気にしなくていいよ』って言って、そのまま何となく別れました」
奏「はあ?」
私の回答に奏恵はたいそうご立腹で、すぐにでも胸倉につかみかかってきそうな勢いで言葉を継ぐ。
奏「何やってんの! どう考えたって両思いだろ! 私も好きです付き合ってくださいって言うんだよ間髪入れず! 相手はあの青学の美形王子様だぞ!」
貴「ああ……やっぱそうするべきだった? ……でもさあ、なんかよくわかんないっていうか」
私の覇気のない戸惑った声に、奏恵は怒気を追い出すように大きく長く息を吐き、ゆっくりと私に向き直った。
奏「全く……お前は童貞かよ」
奏恵の心底あきれ返った声音に、私は困惑しながら「ええ〜」と声を漏らす。
奏「先輩のこと好きなんでしょ?」
貴「…………たぶん……?」
考えて、時間をかけてそう答えると、奏恵は静かな声で「なるほどね」と納得した。
奏「まあAらしいっちゃらしいのか」
私はわずかに首を傾げ、奏恵に先を促す。
奏「つまり、『たぶん』の状態で不二先輩に返答するのは、良心が許さなかったわけね」
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葉奈(プロフ) - はるるんさん» はるるんさんありがとうございます!ゆっくり更新ですがよろしくお願いします(*・ω・)*_ _) (2020年9月7日 20時) (レス) id: c1c4e29ce5 (このIDを非表示/違反報告)
はるるん(プロフ) - 葉奈さん» 葉奈さんこそお疲れ様です(*´-`)疲れを取ってから更新してくださいね(^_^) (2020年8月31日 23時) (レス) id: 3a9f70176a (このIDを非表示/違反報告)
葉奈(プロフ) - はるるんさん» ありがとうございます!仕事お疲れ様です!1度でもいいから終わらない夏休み経験したいですね( ;∀;)更新遅いですがよろしくお願いします! (2020年8月30日 1時) (レス) id: c1c4e29ce5 (このIDを非表示/違反報告)
はるるん(プロフ) - 毎回面白くて更新楽しみに待ってます(^ ^)私も仕事をしているので終わらない夏休みがあるマダオが羨ましく思います笑 (2020年8月18日 22時) (レス) id: 3a9f70176a (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:葉奈 | 作者ホームページ:http://uranai.nosv.org/u.php/hp/hana1/
作成日時:2020年8月11日 1時