128話 持てる全て ページ41
私は顔を上げて不二先輩から顔を逸らしながらカメラの棚に向かった。
不「ごめん、笑いすぎたね。拗ねないで」
貴「拗ねてないですけど!」
謝りながら、不二先輩はまだ喉の奥でくつくつと笑いを噛みこ ろそうとしている。
その様子に背を向け、私は鍵を使ってカメラを棚に戻した。台帳に返却日を記入するため、カメラの棚を机替わりに台帳を広げた。ボールペンを紙の上に置いた時、ふっと視界が暗くなる。
不「ごめん。もう笑わないから」
台帳と私の間に、控えめな不二先輩が顔を出す。
不意の接近に心拍数が上がり、思わず不二先輩とは逆の方向に顔を逸らしてくるりと半回転した。
貴「顔面使えばいいと思ってません?」
背を向けて、少しふざけた口調でそう問いかける。
言いながら、ボールペンで今日の日付を記入し、台帳を閉じても、返答がない。
何か変なことを言ったかと、不二先輩の名前を呼びながら振り返ると、先輩はカメラの棚に僅かに体を預けて、私を見つめていた。
貴「……不二先輩?」
不「Aにだけだよ」
貴「はい?」
不「僕の全部、使えるもの全部、武器にしてでも……って思うのは、Aにだけだよ」
いつもの、いつもと変わらない笑顔でそう言われて、何を言われているのか分からず、私は数秒呆然と不二先輩を見つめ返した。
沈黙を雨音が埋める。
私は不二先輩の言葉を頭の中で反芻して、『武器にしてでも』の、その先の言葉を勝手に想像して、その瞬間、不二先輩から思い切り目を逸らした。
貴「あ……えっと」
床にある視界に、3年生の上履きが、不二先輩の足が見える。それすら心の中がソワソワして、思わず1歩後ろに下がった。
不「それで」
不二先輩は、そこから距離を詰めることはせず、今までの緊張感などなかったように、言葉を続けた。
不「A、わざわざカメラ返しにこんな時間まで残ってたの?」
貴「あ、いや、実はですね」
あまりにも落差のある雰囲気に、私もつられて顔を上げた。
不二先輩の顔はいつものように柔和で、私のアホな話を楽しそうに聞いてくれている。
貴「ホントやっちまったなって思って。やっぱいつもと違うことはやるべきじゃないですよね」
私の言葉に、不二先輩が「ええ?」と笑う。
不「そういう問題なのかな」
貴「そういうことにしときましょうよ!」
私の答えに、不二先輩が「そうなの?」と言いながら肩を震わせている。
話をそらすために、私は「で!」と声量を少し上げた。
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葉奈(プロフ) - はるるんさん» はるるんさんありがとうございます!ゆっくり更新ですがよろしくお願いします(*・ω・)*_ _) (2020年9月7日 20時) (レス) id: c1c4e29ce5 (このIDを非表示/違反報告)
はるるん(プロフ) - 葉奈さん» 葉奈さんこそお疲れ様です(*´-`)疲れを取ってから更新してくださいね(^_^) (2020年8月31日 23時) (レス) id: 3a9f70176a (このIDを非表示/違反報告)
葉奈(プロフ) - はるるんさん» ありがとうございます!仕事お疲れ様です!1度でもいいから終わらない夏休み経験したいですね( ;∀;)更新遅いですがよろしくお願いします! (2020年8月30日 1時) (レス) id: c1c4e29ce5 (このIDを非表示/違反報告)
はるるん(プロフ) - 毎回面白くて更新楽しみに待ってます(^ ^)私も仕事をしているので終わらない夏休みがあるマダオが羨ましく思います笑 (2020年8月18日 22時) (レス) id: 3a9f70176a (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:葉奈 | 作者ホームページ:http://uranai.nosv.org/u.php/hp/hana1/
作成日時:2020年8月11日 1時