127話 忘れ物 ページ40
断ることも出来ず、お礼を言ってカメラの鍵を貰い、一旦職員室を出た。
しばらく職員室前をウロウロしながら、写真室へ行くか悩んでいたが、時間経ったあとまたここ来るのも面倒だよなあ、と、結局効率を優先させて、私は写真室に向かった。
遠目から見て、写真室の扉はピタリとしまり、明かりも漏れておらず、思わず手前で足を止めた。
何となく気配を消してドアの前に立つ。扉の透きガラスからは何も見えず、中から音もしなかった。
これ居るのか?
そう思いながら、一応扉をノックした。
「……はい」
中から、柔らかな中低音が聞こえる。
その声を聞いた瞬間、扉に伸ばしかけていた手が止まり、その掌は意図せず拳を握った。
急激に心拍が上がった気がする。自らを落ち着かせるように息を吐くと、無意識に身体中に入っていた力が抜けていく感覚があった。
よし! と心の中で気合を入れて扉に手を伸ばしかけた時、ガラリと引き戸が開いた。
貴「あ……」
「……あれ、A?」
不二先輩が不思議そうに私を見る。
貴「こ、こんにちは」
何故かいつもよりずっと丁寧な挨拶をしてしまった。ちわっすとかお疲れ様でーすでいいだろ自分。
そんな私を見て、不二先輩は優しげな笑顔のまま私に挨拶を返す。
不「こんにちは。どうしたのA、今テスト期間中じゃなかったっけ」
貴「いやあ、話せば長いことながら……」
私のモゴモゴとした受け答えに、不二先輩はクスリと笑い、私を中に招き入れた。
貴「失礼しまーす」
不「また傘忘れたの?」
振り向きざま、不二先輩の推理が光る。
私は何も言い返せず、両手で顔を覆い隠して、「おっしゃる通りでございます」とくぐもった声で返した。
不二先輩の秘めやかな笑い声が、遠い雨音と共鳴して響く。
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葉奈(プロフ) - はるるんさん» はるるんさんありがとうございます!ゆっくり更新ですがよろしくお願いします(*・ω・)*_ _) (2020年9月7日 20時) (レス) id: c1c4e29ce5 (このIDを非表示/違反報告)
はるるん(プロフ) - 葉奈さん» 葉奈さんこそお疲れ様です(*´-`)疲れを取ってから更新してくださいね(^_^) (2020年8月31日 23時) (レス) id: 3a9f70176a (このIDを非表示/違反報告)
葉奈(プロフ) - はるるんさん» ありがとうございます!仕事お疲れ様です!1度でもいいから終わらない夏休み経験したいですね( ;∀;)更新遅いですがよろしくお願いします! (2020年8月30日 1時) (レス) id: c1c4e29ce5 (このIDを非表示/違反報告)
はるるん(プロフ) - 毎回面白くて更新楽しみに待ってます(^ ^)私も仕事をしているので終わらない夏休みがあるマダオが羨ましく思います笑 (2020年8月18日 22時) (レス) id: 3a9f70176a (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:葉奈 | 作者ホームページ:http://uranai.nosv.org/u.php/hp/hana1/
作成日時:2020年8月11日 1時