122話 ひとたらし ページ35
中華街で昼食を取ったあとは、お土産を買って横浜を散策した。赤レンガ倉庫や山下公園ではしゃいで歩き回り、美術館でゆっくりと過ごして、気づけば既に日は沈んでいた。
3月とはいえ潮風はまだ少し肌寒く、上着の裾を揺らして体を冷やす。
貴「だいぶ寒くなってきましたね」
幸「まだ日が落ちると寒いよね。お腹すいてない?」
問いかけられて、私は腹と相談するまでもなく首を振った。
貴「なんだかんだちょこちょこ食べたから、そんなに。幸村さんは?」
幸「僕もそんなに。さっきお茶しちゃったしね」
幸村さんも同じようで、すぐに返答が返ってくる。
貴「すみません……甘いもの付き合ってもらって」
時間的には夕食を食べてもいい頃だが、私のわがままで付き合ってもらったデザート巡りで腹はいっぱいだろう。
謝ると、幸村さんは口元を弛めて首を振る。
幸「大丈夫。美味しかったね」
横浜の街並みをバックに微笑む幸村さんの、なんと神々しいことか。
貴「優しすぎかよ……」
思わず漏れた心の声に、幸村さんはクスクスと笑う。
貴「そうやって優しくしてるとめっちゃ告られるんじゃないですか」
幸「さあ、どうだろう」
貴「うわーそれもてる人のセリフー」
微笑みを崩さない余裕の表情に、私はからかうように幸村さんを見上げた。
貴「卒業前ですもんね。うちの王子様達もだいぶ呼び出し増えてました。大変ですね、顔も性格も良いと」
私の言葉に、幸村さんの顔が僅かに私からそらされた。
貴「おまけにスポーツも出来て頭もいいとくれば、当たって砕けろ精神で突撃する人も増えるのも納得ですわ」
幸村さんの視線が完全に明後日の方へ向けられた。少し困ったように笑いながら、「そういうことすぐ言うね」と呟く。
貴「そういうこと?」
意味がわからず繰り返すと、幸村さんの顔がこちらへ向く。下げられた眉尻はさっきと同じだが、目元に僅かに感じるのは、私を責めるような色だった。
幸「人たらし」
貴「は?」
結局意味がわからず、私は呆然と幸村さんを見つめる。その顔が面白かったのか、幸村さんはふっと短く息を吐き出して笑い、額に人差し指を置いた。
幸「そういうところ」
幸村さんの言葉に意味が汲み取れず、私はぐっと眉を寄せる。そしてその感覚と、どこかで聞いたことのある言葉の正体に気づいて、より眉間の皺を濃くした。
幸「どうしたの?」
幸村さんが人差し指を外して問いかける。
217人がお気に入り
感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
葉奈(プロフ) - はるるんさん» はるるんさんありがとうございます!ゆっくり更新ですがよろしくお願いします(*・ω・)*_ _) (2020年9月7日 20時) (レス) id: c1c4e29ce5 (このIDを非表示/違反報告)
はるるん(プロフ) - 葉奈さん» 葉奈さんこそお疲れ様です(*´-`)疲れを取ってから更新してくださいね(^_^) (2020年8月31日 23時) (レス) id: 3a9f70176a (このIDを非表示/違反報告)
葉奈(プロフ) - はるるんさん» ありがとうございます!仕事お疲れ様です!1度でもいいから終わらない夏休み経験したいですね( ;∀;)更新遅いですがよろしくお願いします! (2020年8月30日 1時) (レス) id: c1c4e29ce5 (このIDを非表示/違反報告)
はるるん(プロフ) - 毎回面白くて更新楽しみに待ってます(^ ^)私も仕事をしているので終わらない夏休みがあるマダオが羨ましく思います笑 (2020年8月18日 22時) (レス) id: 3a9f70176a (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名:葉奈 | 作者ホームページ:http://uranai.nosv.org/u.php/hp/hana1/
作成日時:2020年8月11日 1時