101話 背中 ページ4
もうとっくに借りる本は決まっていたようで、そうしてくつくつ笑いながら、不二先輩がカウンターに足を向ける。意地悪な不二先輩に、私は気恥しさを覚えて少し後ろを歩いた。
カウンター横、ピックアップコーナーに屯していた女子が、不二先輩の登場に素早い動きで空間を作る。避けようがよけまいが、カウンターで本の貸し借りをするのに特に影響は無いのだが、先輩はさわやかにお礼を言って図書室を出る。
先輩が図書室という空間から居なくなると、『九重わかってるな』と視線で身体中を威圧される。
後ろからビシバシ感じる視線から逃れるため、私も少し間隔をあけて図書室を出た。
1歩外に出ると冷気とともに空気が和らいだように感じ、息を着く。
向かう先に視線をやると、不二先輩がこちらを向いて微笑んでいた。
向かう方向が同じなのか。
私は僅かに軽くなった足を進めて、不二先輩の隣に並んだ。
すると、先輩が歩き出す。歩幅はいつもより狭く、歩調もゆったりとしていた。
不「人が多いなと思ったら、もうすぐバレンタインなんだね」
不二先輩がちらりと図書室を振り返りながら呟く。
女子が避けたところから、ピックアップコーナーにおいてあった雑誌が見えたのだろう。本当に思い出したように呟いた先輩に、思わず驚きの声を出す。
貴「これだけ校内ふわついてるのに気づかなかったんですね」
不「全く」
本当か嘘か分からない声音と表情で断言される。
不「A、毎年何だかんだ貰ってるよね」
貴「それは不二先輩じゃないですか。私は貰うって言っても友達からです」
先輩は違うでしょう、と出歯亀的な視線を投げると、先輩は困ったように表情を崩す。
先輩は、告白付きのプレゼントは受け取らない。答えられない気持ちを受け取るのは申し訳ないからだそうだ。
ただ、どうしてもとか、明らかに本命だけど義理として渡されたものは受け取っている。バレンタインに関してはお返しも要らないと言われるが、毎年律儀に返していた。
貴「不二先輩、誕生日もあるから、大変ですね」
不「ありがたいんだけどね」
だけど、申し訳ない。
言外に滲む言葉が寂しげで、なんと声をかけていいか分からなかった。
互いに言葉が途切れ、タイミングをはかったように、昼休みを終えるチャイムが響く。その音に先輩がゆっくり顔を上げて、「じゃあまた」と言って手を振る。
優しい先輩の背中は、いつも誰に預けるのだろうか。
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葉奈(プロフ) - はるるんさん» はるるんさんありがとうございます!ゆっくり更新ですがよろしくお願いします(*・ω・)*_ _) (2020年9月7日 20時) (レス) id: c1c4e29ce5 (このIDを非表示/違反報告)
はるるん(プロフ) - 葉奈さん» 葉奈さんこそお疲れ様です(*´-`)疲れを取ってから更新してくださいね(^_^) (2020年8月31日 23時) (レス) id: 3a9f70176a (このIDを非表示/違反報告)
葉奈(プロフ) - はるるんさん» ありがとうございます!仕事お疲れ様です!1度でもいいから終わらない夏休み経験したいですね( ;∀;)更新遅いですがよろしくお願いします! (2020年8月30日 1時) (レス) id: c1c4e29ce5 (このIDを非表示/違反報告)
はるるん(プロフ) - 毎回面白くて更新楽しみに待ってます(^ ^)私も仕事をしているので終わらない夏休みがあるマダオが羨ましく思います笑 (2020年8月18日 22時) (レス) id: 3a9f70176a (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:葉奈 | 作者ホームページ:http://uranai.nosv.org/u.php/hp/hana1/
作成日時:2020年8月11日 1時