【幸村精市】 ページ29
幸「九重さんと同じものにしようかな。それ、見せてもらってもいい？」
貴「はい」
私が頷くと、幸村さんの手が差し出される。受け取った幸村さんが元のベンチに腰かけ、私を見て手招きをした。
まさか隣に座ってと言われるとは思わず、つい身構える。幸村さんは悠々と手渡した本をめくっていた。
何だか思ったより距離感の近い人だ。
立ち話のつもりが、初対面2人で並んでベンチに腰掛けている。
幸村さんの柔らかく、どこか影のある雰囲気がそうさせるのか。私は浅くベンチに座り、表紙と出版を確認する幸村さんを横目で盗み見た。
幸「院内の本屋にあるかな……」
頭の中に書店を思い浮かべているのだろうか。視線を宙に漂わせている幸村さんに、私は笑いながら声をかけた。
貴「なくても買ってきてもらえばいいんじゃないですか」
何気なく発した言葉に、幸村さんの表情が一瞬固まる。私の動揺に気がついたのか、直後、苦しそうにわざとらしく口元にだけ笑みを作った。
沈黙の後、口を開こうとした幸村さんをさえぎって、私は思わず大きな声を出した。
貴「あの！ それ、貰ってください！」
幸「……え」
先程とは違う硬直。幸村さんの顔を見て、言い訳をするように言葉を並べる。
貴「いやまあそれもう汚いからいらないなら全然大丈夫っていうか普通いらないですよねすみません忘れてください」
幸「ま、まあまあ落ち着いて」
テンパって独走している私を、幸村さんが優しくなだめる。その声に顔を上げると、目の前に幸村さんの両の手のひら。右手には『夜間飛行』があった。
私が落ち着いたのを見ると、幸村さんはゆっくりと両手を下げて、視線で小説を追いかける。
暫しの沈黙。何かを考え込んだあと、幸村さんはゆっくりと、言い聞かせるように口を開いた。
幸「……借りてもいいかい？」
貴「借りる？」
幸村さんの言葉を復唱して問いかける。幸村さんは優しく頷いて、首を傾げた。
幸「貰うのは、申し訳ないから。……だめかな」
美少年の首こてんあざといな！
喉元まででかかった叫びを何とか嚥下し、私は何事も無かったかのように頷いた。
幸村さんが少し強ばっていた笑みを和らげる。
幸「ありがとう」
そう言って、なぜか宝物を見るような目で小説を見つめていた幸村さんは、唐突に顔を上げて私を見た。
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葉奈(プロフ) - はるるんさん» はるるんさんありがとうございます！ゆっくり更新ですがよろしくお願いします(*･ω･)*_ _) (2020年9月7日 20時) (
レス) id: c1c4e29ce5 (このIDを非表示/違反報告)
はるるん(プロフ) - 葉奈さん» 葉奈さんこそお疲れ様です(*´-`)疲れを取ってから更新してくださいね(^_^) (2020年8月31日 23時) (レス) id: 3a9f70176a (このIDを非表示/違反報告)
葉奈(プロフ) - はるるんさん» ありがとうございます！仕事お疲れ様です！1度でもいいから終わらない夏休み経験したいですね( ；∀；)更新遅いですがよろしくお願いします！ (2020年8月30日 1時) (レス) id: c1c4e29ce5 (このIDを非表示/違反報告)
はるるん(プロフ) - 毎回面白くて更新楽しみに待ってます(^ ^)私も仕事をしているので終わらない夏休みがあるマダオが羨ましく思います笑 (2020年8月18日 22時) (レス) id: 3a9f70176a (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：葉奈 | 作者ホームページ：http://uranai.nosv.org/u.php/hp/hana1/
作成日時：2020年8月11日 1時
