【幸村精市】 ページ27
「急にすみません。僕の周りにそういう本を読む人がいないから」
貴「……確かに、私の周りにもいないです」
彼がくすりと頬を揺らす。そして思い出したように「あっ」と声を上げて続けた。
「僕は幸村精市です。中2なんだけど、同い年くらい?」
正直、私は完全に年上だと思っていたし、下手したら高校生かもと思っていたから、『同い年くらい』と言われて、失笑してしまった。
貴「中1です。九重Aと言います」
すると彼、幸村さんは、僅かに硬直して直後、首を傾げた私に何故か謝罪を口にした。
幸「ごめん。知っている人と同じ苗字だったんだ」
貴「……あー」
そう言われて、もしかしてと思い至るがあえて口にはしなかった。気にしないでくださいと首を振って、話題をそらす。
貴「なんの絵を描いてたんですか」
背後にあるキャンバスに視線を向ける。写生かと思ったが、彼のキャンバスに描かれているのは、目の前の灰色と青ではなく、緑や赤など色鮮やかなものだった。
幸村さんはにっこりと笑って、ベンチの上に置いてあった1枚の長方形の紙を手に取る。
幸「これだよ」
そう言って差し出したのは、色とりどりの花壇の写真だった。
幸「僕の家の庭の花壇なんだ」
貴「凄いですね。こんなに沢山咲いてるんだ」
幸「妹が写真をくれてね。せっかくだからと思って」
幸村さんは慈しむように写真からキャンバスへ視線を移した。
幸村さんがなぜこの病院にいて、どれほどの期間いるのか分からない。どう答えていいかわからず、私は曖昧に微笑んだ。
幸村さんもそれを感じとったようで、謝るように眉尻を下げた。
幸「九重さんは、なんでこんな所で本を読んでいたんだい」
話題の変換がありがたい。私は手の中にある小説を持ち直した。
貴「祖母が倒れたって聞いてきたんですけど、大したこと無かったからって、親戚一同が集まって話し始めちゃって、暇で」
幸「そうなんだ。おばあさん、大したこと無くて良かったね」
幸村さんの気遣いに頷く。
幸「でも、わざわざこんな寒いところに来なくても」
幸村さんが小さく身をすくませる。
私も「そうなんですけどね」と同意して続けた。
貴「病院の中って、なんかどこも人がいて、意外と落ち着ける場所なくて。暖かいから眠くなっちゃうけど寝る場所ないし。だから眠気覚ましにと思って」
幸「眠気覚ましに『それ』を読むんだね」
眠くなる人が多そうなのにと、幸村さんが私の手の中の小説を指さして笑う。
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葉奈(プロフ) - はるるんさん» はるるんさんありがとうございます!ゆっくり更新ですがよろしくお願いします(*・ω・)*_ _) (2020年9月7日 20時) (レス) id: c1c4e29ce5 (このIDを非表示/違反報告)
はるるん(プロフ) - 葉奈さん» 葉奈さんこそお疲れ様です(*´-`)疲れを取ってから更新してくださいね(^_^) (2020年8月31日 23時) (レス) id: 3a9f70176a (このIDを非表示/違反報告)
葉奈(プロフ) - はるるんさん» ありがとうございます!仕事お疲れ様です!1度でもいいから終わらない夏休み経験したいですね( ;∀;)更新遅いですがよろしくお願いします! (2020年8月30日 1時) (レス) id: c1c4e29ce5 (このIDを非表示/違反報告)
はるるん(プロフ) - 毎回面白くて更新楽しみに待ってます(^ ^)私も仕事をしているので終わらない夏休みがあるマダオが羨ましく思います笑 (2020年8月18日 22時) (レス) id: 3a9f70176a (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:葉奈 | 作者ホームページ:http://uranai.nosv.org/u.php/hp/hana1/
作成日時:2020年8月11日 1時