検索窓
今日:21 hit、昨日:32 hit、合計:142,029 hit

40話 苦しみの向こう側 ページ41

不「Aはすごいね」


ぽつりと、先輩が、擦れた小さな声で言った。

貴「え?」

先輩の方を向くと、そこにはいつもと変わらない笑顔がある。

不「強いよね。負けても次に向かえる強さがあるよね」

貴「でも、負けてからじゃダメなんです。競技途中どんなアクシデントに見舞われても、パフォーマンス力を落とさないように。そういうのってやっぱり、日々の練習だと思います」

不「ほら、そういうところがすごい」

微笑をにじませた声で、先輩が私を見る。

不「勝利に貪欲。なのに楽しさを忘れないでいられる。辛くても苦しくても、Aはいつだって楽しそうだよね」

貴「不二先輩だっていつも笑ってますよ」

不「そういうことじゃないよ」

何だろうと首をかしげる。
笑いながら、先輩は天井を見上げた。

不「楽しさっていうのを、自分以外の誰かに伝えられる。その後ろに苦労の欠片も見せないでいられる。そういうのって、すごいと思う」

とぎれとぎれの言葉の中で、先輩は力強くそう告げた。

私はただ茫然と、先輩を見つめた。

そんなことを言われたのは初めてだった。
ああそうだ。楽しいことばかりじゃなかった。辛いことの方が多かった。悔しくて苦しくて、やめたいと思った時だってあった。

それでも。


貴「負けた瞬間の、あの感覚が嫌いです」

そういうと、先輩はちいさく、「そうだね」と返した。
窓の外に目をやると、まだ雨が降り続いている。


貴「だけど、勝ちを手にしたあの瞬間。今まで練習してきたことすべてを出し切ったあの瞬間の、喜びって言葉だけでは表せないほどの興奮が、大好きなんです。今までの練習すべてが、この時の為だけにあったんだって、それだけで、私はまた、頑張れると思うんです」



雨なんてへでもない。また頑張ればいい。

貴「なーんつって、かっこいいこと言い過ぎ……」

恥ずかしくなって、一転おどけた口調で先輩に目をやる。

貴「……っ」

言葉を失った。息を呑んだ。

先輩の表情が、あまりにも優しすぎた。


不「僕も、そうだよ」


なにか決意を秘めた声で、先輩はそう言った。

不「そうだよね。勝った時のあの気持ちは、何にも勝ることはないと思うよ」

きっと先輩の方がいろいろなことを経験しているだろう。

天才ともてはやされる先輩。どれだけの重圧だっただろうか。
それでも先輩はそれをはねのけるように試合では魅せた。

でも知ってる。私だけじゃない。青学のテニス部は、みんな知ってる。
不二先輩の努力。

41話 ずっと上にいる→←39話 競技者だからこそ



目次へ作品を作る感想を書く
他の作品を探す

おもしろ度を投票
( ← 頑張って!面白い!→ )

点数: 9.7/10 (89 票)

この小説をお気に入り追加 (しおり) 登録すれば後で更新された順に見れます
198人がお気に入り
設定タグ:葉奈 , テニプリ , 不二周助
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告

感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)

ニックネーム: 感想:  ログイン

葉奈(プロフ) - そうですww作者がにこにー推しですww (2015年5月17日 19時) (レス) id: b46f08eacb (このIDを非表示/違反報告)
ユール - えーと…にこにー? (2015年5月15日 18時) (レス) id: 63bdae9473 (このIDを非表示/違反報告)
葉奈(プロフ) - ありがとうございます!がんばって更新しますのでよろしくお願いします!! (2014年11月30日 18時) (レス) id: 884e662617 (このIDを非表示/違反報告)
yunyun - 合格、おめでとうございます。本当に良かったですね。更新、楽しみにしてますね。 (2014年11月30日 15時) (レス) id: 329a32a11c (このIDを非表示/違反報告)
葉奈(プロフ) - 雪代さん» ありがとうございます!!! 頑張りますのでよろしくお願いします! (2014年11月10日 22時) (レス) id: 884e662617 (このIDを非表示/違反報告)

作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ

作者名:葉奈 | 作者ホームページ:http://uranai.nosv.org/u.php/hp/hana1/  
作成日時:2013年10月27日 21時

パスワード: (注) 他の人が作った物への荒らし行為は犯罪です。
発覚した場合、即刻通報します。