数学サタデイ【スピンオフ】～Winter’s Tale～ (ページ3)

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加法ページ3

「Aちゃんごめんね、こんな日にヘルプ頼んじゃって。」

「いえいえ、店長1人じゃ大変だし、私は全然大丈夫なので。」

こんな日、すなわちクリスマスイブ。
私はバイト先のカフェにいた。

私は大学生になったと同時に一人暮らしを始めた。

高校2年の時、親の都合でこの街を離れた。
それでもどうしてもここが好きで、馴染みの土地にほど近い大学を選んで戻ってきたのだ。

ここのカフェも思い出の場所だ。
私が高校生のとき、お客として通いつめた過去がある。

なぜこうして働いているかについては後に語るとして。

「あとは俺1人でなんとかなりそうだから、今日は早めにあがっていいよ！」

「えっ、本当に？！ありがとうございます、じゃあ、お先に失礼します！お疲れ様です！」

簡単に束ねた髪をほどき、エプロンを雑にたたんでトートバッグにつめる。

素早く帰り支度を始める私を店長がくすりと笑った。

バイト用のローファーを玄関に脱ぎ捨て、真っ先にシャワーを浴びた。

いつもは櫛を通すだけでストレートのままの髪に丁寧にウェーブを作る。

長めのアイラインにマッドな口紅、ペールオレンジのチーク。

ちょっとでも綺麗にみせたくて鏡の自分とにらめっこをする。
なかなか理想の女の人にはなれなくて虚しくなる。
でも、私はこうしているときの自分が恥ずかしくもあり好きだった。

どこか懐かしいプルメリアのパフュームを手首に仕込み、自分の持っている中で一番高いヒールを選んだ。

ふわりとしたワンピースの美しいシルエットを玄関の全身鏡に映す。
胸元のリボンをキュッと結んで、私は家を出た。