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熱がこみ上げる。
逃れるように息を吐き出して私は智の手を探した。
見つけて握る。
握り返された。
「さと、」
名前を呼ぼうと思った。
けれど、それより前に智が止まった。
のっそりと起き上がる、薄暗い部屋の中で智の目がわずかな光を反射した。
「やっぱりさぁ、混ぜない方が綺麗だと思うんだよ、俺は」
泣きそう、という言葉が一番しっくりくると私は溶けた思考で考える。
そう、泣きそう、だ、今の智の顔は。
私は手を伸ばして頬に触れる。
私の手を上から包んだ智は、今度は悲しそうに笑って見せた。
「俺はお前が好きだけどさ、そこに俺を混ぜんのは嫌だな」
あぁ、奇遇だ。
それはまさしく私が思っていたのと同じことではないか。
「うん」
私が頷くと智がまた覆いかぶさる。
泣きそうな顔は影を潜めて、ただ智は眉を寄せて私の身体を撫でていた。
眠る直前、あぁそういえばと私は思い出して瞼を上げる。
先ほど最中に智がさらりと言っていたけれど、私は一度も言ったことがなかったことに気が付いたからだ。
「ねぇ智」
名前を呼ぶ。
すっかり口に馴染んだ、つがいの名前を呼ぶ。
「なんだ、A」
「好きだよ」
「そうか」
ちょっとだけ、嬉しそうに智が笑ったような気がした。
暗くて確かめられないけど、気がしただけで十分だ。
「おやすみ、智」
「おやすみA。いい夢を」
智らしくない気障なこと言うね、そう言葉を返したつもりだったけど言葉になっていたかどうかはわからない。
眠りにつく。
二人で、まどろみの時間を閉ざす様に。
夜中、目が覚めた。
私は体を起こす。
隣に智はいなくて、代わりにテーブルに人の姿があった。
「なにしてんの」
「なんだ起きたのか」
「それ、私の」
「今日で最後にするよ」
智は笑いながらお皿の明太子をつまみ上げて口に放り込む。
お土産でもらった明太子。
いつも智が先に食べてしまって私は久しく口にしていない。
もっとも、それがわかっているならもらったときに食べればいいと言われてしまいそうだが。
そうしないことがすべての答えを物語っているのだ。
「べつに、いいけど」
私が言うと智が笑みをひっこめる。
「今日で最後だ、約束」
そんなことを言って智は箸をおいた。
背を向ける、その顔がわからなくなった。
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iCHiKA(プロフ) - tubinさん» コメントありがとうございます！そして、嬉しいお言葉をありがとうございます！お楽しみいただけたとのこととても光栄です。今後もお楽しみいただけるよう頑張らせていただきますね！ (2021年8月24日 20時) (
レス) id: ca4476f6fd (このIDを非表示/違反報告)
tubin - すごくおもしろかったです！！ 無中になって読んでました!! 続きがすごく楽しみです!! 応援してます!! これからもがんばってください！！ (2021年8月22日 20時) (レス) id: 73a03e30c5 (このIDを非表示/違反報告)
iCHiKA(プロフ) - にゃんちきさん» にゃんちき様、いつもありがとうございます！糖度高めを目指して頑張ったお話でしたが、お役に立てたようで良かったです。こちらこそご賞味ありがとうございました。 (2021年8月21日 20時) (レス) id: ca4476f6fd (このIDを非表示/違反報告)
にゃんちき(プロフ) - 最近疲れ気味だった私には翔さんの甘さが最高のご褒美になりました。ご馳走様でした( ´ω` )/ (2021年8月19日 19時) (レス) id: 64ed16a329 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：iCHiKA
| 作成日時：2021年8月15日 14時
