素直になれたらよかった【降谷零】

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「……い、着いたぞ。起きろ、A」

肩を揺すられて、はっと目を覚ました。
いつの間にか寝てしまっていたようだ。

「ふと隣を見たら寝てたから驚いた。どんな夢を見てたんだ？」

「んー？零と歌詞乗っ取りゲームする夢かな」

「それ、現実だぞ」

「え、嘘」

「嘘だけど」

ぶっ、と吹き出した零にパンチをかまそうかと思ったが、なんとか耐えた。

「まあそんな怒るな。行くぞ、A」

零が車のエンジンを切ったので、私は車を降りた。
目の前の建物を見て、本当にふたりでここに帰ってきたんだなと思った。




鍵を開けて、玄関の電気をつける。

「ただいまー」

いつもの調子で言ってしまってから、零が怪訝そうにしているのに気づいた。

「誰もいない……よな？」

「ごめん、癖でつい」

「はは、じゃあ俺も。ただいま」

久しぶりの『ただいま』に、心が震えた。
ここで一緒に過ごした日々がフラッシュバックする。

「俺の部屋もそのままなんだな」

「うん。ちゃんと掃除もしてるし」

最近お邪魔していることは黙っておこう。

「あれ？この本とブランケット、俺の物じゃないよな？」

ぎく。昨夜、寝られなくてここで読んだ本だ。片付け忘れてたなんて……！

「あはは、年末に、邪魔だったからここに置いたんだっけな」

私はそれらをさっと回収した。先週買った本だったが、これで発行日を見られることもないだろう。

「でもその本、先週出たやつだろ？」

「……ど、どうしてそれを知ってるの」

「同僚に勧められたんだ。まだ読んでないけどな」

完敗だ。こいつはもう色々と察していることだろう。もうやだ。

「シャワー浴びてくる……」

私は意気消沈してバスルームへ向かった。

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