素直になれたらよかった【降谷零】

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車は、音楽に乗せてどこまでも走っていく。
どこに行くの、なんて野暮な質問をするのはやめて、零の運転に全てを任せることにした。

「こうして零と出かけるの、ずっと楽しみにしてたんだ」

「俺も、暇がもらえたら誘おうと思ってたんだけどな。待たせて悪いな」

「いえいえ。滅多にできないからこそ特別だよ」

「……いつか出来たらいいな、『特別』が日常になるような生活」

「そうだね……」

少し会話が途切れる。毎日幸せなことがあったら、こんな特別嬉しい気持ちになることもなくなってしまいやしないだろうか。

「はは、またしんみりしちゃったな。俺がよく考えて喋ることなんて滅多にないんだから、Aも深く考えなくていいぞ」

「えー？ほら、考え込むのは癖だからさ」

「どうだか」

「もう、零だって知ってるくせに！」

渾身の力で零の肩を殴ったら、びくともしなかったくせに「やめろ、万が一にもハンドル操作を誤って事故ったらどうする」なんて言われた。
零は私のことをからかうのが好きだ。

「ほんと、そういうところ子供っぽいよね」

「好きだろ？」

「自惚れすぎ、調子乗るな」

いつのまにか雰囲気が変わっているものだから不思議だ。
簡単に好きだなんて言わないけれど、この人に出会えたことが本当に幸せだと思った。

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